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【イベントレポート】SMALL BUSINESS LABO セミナー 藤原印刷・藤原隆充さん

#JIRIN
2022.07.04
2022年6月4日、鹿猿狐ビルヂング3階・JIRINにて、SMALL BUSINESS LABO セミナーを開催しました。今回のゲストは、長野県松本市にありながら全国のクリエイターから指名殺到で注目を集める、藤原印刷株式会社の専務取締役・藤原隆充さん。

本社は長野県にあるもののご両親が東京オフィスを担当されていたことから、藤原さんは東京生まれ東京育ち。大学卒業後は東京でコンサルティング会社やインターネット広告のベンチャー企業に務めた後、13年前にそれまで暮らしてきた東京を離れ、家業へ入るため松本へIターンされました。

現在はデザイナーやクリエイターからの依頼や個人による自費出版などでの売上が3割ほどになっているそうですが、当時の藤原印刷は専門書や実用書印刷が中心で、売上のほとんどが出版社との取引で発生するものだったそう。

家業と言えどもそれまでは印刷に特に興味があったわけではないと話す藤原さんは、「印刷」という事業の大きな枠組みは変えられない中で、どのように独自のポジションを築いていったのでしょうか。今回のイベントレポートでは、SMALL BUSINESS LABO初の後継者の方によるセミナーとして、そのお話の一部をご紹介します。

勝つためにリソースを適切に投下する

藤原印刷はもともと藤原さんのおばあ様によって起ち上げられたのが始まり。その後、現在はお母様が経営者として後を継がれています。パワフルだったおばあ様の意思を継ぎ、お母様が何とか盤石な体制を整えてはおられましたが、印刷産業自体は1990年代後半のIT元年と言われるタイミング以降、下がる一方。

印刷業は受注型製造業のため、請負体質・価格競争・スピード勝負という特徴を持ちやすく、市場自体がシュリンクすると簡単に価格競争やスピード勝負になってしまいます。最近では活字離れが進み、また電子書籍の台頭などもあって閉店する書店も増えているというニュースも、当たり前に聞くようになりました。

そんな印刷業界にある藤原印刷へ、27歳の時に隆充さん、2年後に弟の章次さんが入社。入社後の2010年には「このままでは先細りする」と、新興市場である小ロット多品種印刷への対応や、新規事業である電子書籍への進出を試みます。ですが、利益率が悪いなどの理由から結果は"ぼちぼち"。藤原さんは当時を振り返り、以下のように話されました。

「結局リスクを背負ってなくて、片手間でやってたんですよね。そこを真剣にやってたわけじゃなかった。もともと出版社さんのお仕事があって社内の人員やお金もそこに回していて、新しい方はちょこちょこしかやらない程度ならそりゃ勝てませんよね。100のリソースがあるときに20ずつあてがっても、勝てるラインに行くはずはなくて。どこかに集中しないとダメだったなと今振り返ると反省しますね」
講演時のスライドより

圧倒的差別化:製造業に顧客満足度の概念を取り入れる

藤原印刷が現在強みとするのは、画像補正の技術力が高く「美しくきれいに印刷できる」こと、またニーズに合わせて最適な製本ディレクションを行うなど「あらゆる製本加工へ精通している」ことの2つ。ただ実はこの2つ、他の印刷会社でもできなくはありません。

では、なぜ指名されるのか? 藤原印刷の転機となったのは「印刷会社が理由で作りたいものが作れない」といった声をデザイナーの方々から複数いただいたことでした。「水と空気以外は何でも印刷できる」と業界分析の本に書いてあったにも拘らず、これはどういうことなのか。藤原兄弟は疑問に思います。

「主語が誰かによって、作りたいものが変わるんですよね。例えば住宅なら、工務店と建築家それぞれで、やりたい・やりたくない住宅の種類が変わる。建売住宅なのか、注文住宅なのかでそれぞれ特徴は違うし、難易度やコストも違います。この差が印刷業界にもあったんです」
講演時のスライドより
クオリティにこだわり唯一無二の印刷を試みたいクリエイターに対し、当時の印刷会社の反応は、面倒な依頼は極力避けて勝手知ったる印刷のほうを多く受注したいというもの。デザイナーの言葉からその事実に気付いた藤原兄弟は、自分たちの強みの置き所を変化させ始めていきました。

「『全ページを違う紙で印刷したい』のような、なかなかハードなご相談もいただいたんですけど、当時、弟と決めてたのは仕様でヤバいものを言われても、否定せず『熱いですね!』と返すこと(笑)。否定も肯定もせずにお話を聞いて、どうすれば現実的なコスト感で理想に近づく印刷ができるか考える。まぁそんな(無茶苦茶に思える)案件をとってきたら社内はザワつくんですけど(笑)、取ってきたならやるしかないと、最初はパワープレーで進めていた部分も大きかったですね」

印刷業界では高品質を謳う企業が既に多くあり、それだけでは他に差がつけにくい。そこで差別化するため、藤原印刷では顧客満足度の概念を取り入れようと考えます。競合の多くは自社の都合に寄せた印刷物の受注が中心で、社内で追いかけている指標が顧客満足度とリンクしていないと思える状況。一方、「価格」「速さ」「品質」「技術」が差別化要素になりにくいならばと、藤原印刷は他社にない視点として、「接遇」と「ホスピタリティ」をものづくりに加え、顧客満足度を上げようと決めたのです。

「その具体として、レタッチや画像補正で理想の色表現に近づけるための技術者であるプリンティングディレクター職を採用して、技術のある人材に利他の精神を叩き込んでいきました。サッカーで例えると強固なセンターラインを構築したイメージです。自分たち兄弟に加えて確かな技術を持つ現場の技術者を揃え、依頼に対応できる体制が、誰も挑戦したことのないような印刷表現に挑戦できる基盤となりました」
講演時のスライドより
「結局どこもやってなかったり、聞いた瞬間に驚いて人に言いたくなったりするレベルでやらないと、明確な差別化に繋がらないと思います」

こうしてクリエイターの信頼を得ていった藤原印刷。手がけた書籍がクライアントの喜びの声と共にInstagramやTwitterへアップされると口コミに繋がり、徐々にその名は全国へとどろくこととなっていきました。

非合理の先の合理

他に類を見ない印刷案件を多数手がける藤原印刷には、「どうやって儲けているのですか?」といった質問もよく寄せられるそう。それに対し、藤原さんが返すのは「非合理の先の合理」という話です。

「最初は100の工数がかかったけど、2回目は80や70の力でできるようになっていく。一回目は儲からないかもしれないけれど、繰り返すことで儲かるようになっていくんですよ。あと、経験を重ねていくと提案に繋がります。やればやるだけ差がついて、難しい経験をした分だけ身につく知識が増えるんですよね。そうなってくると、打ち合わせ段階でお客様へ提案できる引き出しが増えていくんです」

その他にも “印刷会社なのに事業” と謳い、お客様の満足に繋がる数々の挑戦を重ねてきた同社。例えば自分たちで刷った本を仕入れて売る「印刷屋の本屋」であったり、「心刷祭」と名付けたオープンファクトリーイベントだったりと、取引先や一般のお客様はもちろん、社員も喜ぶ機会となっています。
藤原印刷が手がけた書籍たち
藤原印刷では藤原兄弟の入社後、「印刷で幸せを。つくる人を増やす。」というビジョンを掲げました。このワードは、独自の強みを持って事業に取り組む中で生まれてきた想いがもととなっています。

「もともと藤原印刷にビジョンはなく、社訓の『心刷(しんさつ)』だけがありました。この10年間やってきて見えたのは、印刷は人を幸せにできるということ。さらにその先には藤原印刷によって作る人を増やせるのではないかということです。本は読む行為が一般的ですが、こだわって作られた本を手に取った人は『自分も本を作ってみたい』と思う。そのほうが自分たちのやりたいことに近いなと、このビジョンを掲げ始めました」

これから挑戦する方へひとこと

最後にスモールビジネスに取り組む方へ、藤原さんより一言をいただきました。

「起業される方は好きなことを仕事にしたり、自分が心躍ることをテーマにされていると思うんですけど、後継者の方はその会社やビジネスが好きとは全然違うところから入っていくんですよね。

僕らも最初は、印刷が好きではありませんでした。でも10年間そのことだけを考え続けると結果的に好きになったんですよ。頭で考えるよりやり続けると好きになっていくこともあるんじゃないかなって。いま好きなことがない人も、一つのテーマをやり続けると好きに繋がるときもあると思います。最初から全て好きに繋がらなくてもいいんじゃないかなということを、ぜひ伝えられたら」

業界の慣習にとらわれず、相手が喜ぶことを考えシンプルにやり続ける。そうして得た独自の強みは、今や誰もが真似できそうながら、誰にも真似できないものとなりました。

テーマに制限があったとしても、考え方次第ではまだまだやれることはある。まずはとにかくやってみて、とにかく続けてみる。そうして見える世界を、藤原さんが教えてくれました。
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文:谷尻純子(中川政七商店 編集・広報)
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