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【イベントレポート】内藤廣氏×中川政七「まちづくりと建築」

#JIRIN#オンライン#鹿猿狐ビルヂング
2021.04.28
2021年4月24日(土)、鹿猿狐ビルヂング3階「JIRIN」にて株式会社中川政七商店主催の「まちづくりと建築」トークイベントを開催しました。

ご登壇いただいたのは、鹿猿狐ビルヂングの建築を手がけた日本を代表する建築家の一人・内藤廣氏。会場約20名、オンライン約90名の方にご参加いただきながら14時~15時30分の1時間半で開催し、前半は内藤廣氏の単独講演、後半は中川政七との対談という2部構成でお届けしました。

こちらのイベントレポートでは当日の内容より、その一部をご紹介します。

鹿猿狐ビルヂングの建築と、入居テナント「㐂つね」「猿田彦珈琲」がシンクロする点とは

まずは内藤氏の講演からスタート。導入では鹿猿狐ビルヂングに入居する各テナントについて、内藤氏が感じた、今回の建築とシンクロしている点について語りました。

※以下ではお話のポイントを箇条書きで書いていきます。
内藤氏:

・㐂つね…フレンチの考え方と和食、それに奈良の地元食材の混ざり方が面白い。すきやきという日本料理の定番メニューをベースにしているところは、この建物が屋根に瓦を葺いてまわりの景色に合わせているところと繋がる。すきやきにフレンチの新しい考え方を盛り込んでいるのは、最先端の技術力を搭載した鉄骨づくりのこの建物とリンクする。

・猿田彦珈琲…日本人好みのブレンドや焙煎の知恵が入っており、ステレオタイプ化した珈琲と違うところが皆さんに受け入れられているポイントなのかなと思う。何より猿田彦という名前が好き。伊勢神宮近くにある猿田彦神社は大工の神様で自身も通っていた。建設業にとっては非常に近さを感じる名前。

建物について/鹿猿狐ビルヂングの建築のポイント

続いては鹿猿狐ビルヂングの建築について。どういった点に工夫を施し、こだわったのかについてお話しいただきました。
内藤氏:

・木造やコンクリートでつくることも考えたが、依頼をもらった時はまだこの場所をどう使っていくか、中川政七商店の考えも固まりきっていない時だった。だったら、建物の骨格はしっかりつくって今後の中川政七商店の活動を支えていけるように、また建物で行われる企画が100年後に変わったときも空間は自由に使いまわせるようにしたいと考えた。そうなると、木造にすると空間の中に柱をいくつか使わないといけないため、広い空間をつくれないと考え鉄骨づくりにした。

・鉄の力をうまく使ったつくり方をすべく、極力ミニマムな構造材を採用している。実は1階、2階、3階で柱の太さが違う。1階がちょっと太くて、3階になるにつれ細くなる。木造の柱と同じくらいの細さの柱を使っている。

・広い窓からいい景色が見渡せるよう、窓と反対の側で耐震性能をとっている。窓のほうには余計な部材は増やさず開放的に見えるよう工夫を施した。
3階「JIRIN」
・自身は歴史を引きずっているような狭い幅の路地が好き。ヨーロッパを観光していて愛されるのもそういう場所。まちの暮らしやにおいを感じる。鹿猿狐ビルヂングは、暮らしに近いその道の良さをいかしてつくろうと考えた。

・建物は奥に魅力的な場所があると豊かになる。「旧 遊 中川」につながる建物の内側の路地はこだわってつくろうと思った。こういう場所には表通りにはない、心情や心のひだみたいなものが宿るような気がしている。
旧 遊 中川へと繋がる路地
・つくり方でも伝統と新しさをミックスさせた。伝統的な部分は瓦屋根で大事にし、お客様を迎える下の部分には新しい風を吹かせたいと思い、小庇(こびさし)は通常使われるような素材などではなく、新しいものを採用した。

まちづくりについて/夜の都市計画・盛り場の研究・都市の味

建物についてのお話が終わると、続いてまちづくりについての話もしてくださいました。お話は日本の都市計画の父と呼ばれる石川栄耀(ひであき)氏のご紹介から始まりました。

参考>石川栄耀氏「都市計画家 石川栄耀」

内藤氏:

・石川栄耀氏は戦後、焼け野原の後の東京をどうつくっていくかに取り組んだ方。主に手がけた計画は新宿や歌舞伎町、中野サンモール商店街、名古屋など。

・生涯にわたって「夜の都市計画」と呼ぶ、盛り場の研究をしていた。産業はもちろん大事だが、それより人が集まって楽しそうに団らんする、暮らすことこそが都市の目的だと考えていた方。自分もその考え方を大切にしている。

・石川氏のいう「都市の味」という表現は、まちづくりのなかで考えてみるといいと思う。それぞれのまちがどんな味を持っているか、イメージを語ってみると面白い。暮らしたり歩いたりするときに思い出す、そのまちの味とは。

まちづくりについて/近未来のまちの主役である、子どもに目を向けてみる

その後、話はまちづくりの主役の話に移ります。通常のまちづくりは大人が主要メンバーとなって進めるケースが多いですが、内藤氏は子どもに目を向けてみてはどうかとお話しされました。

内藤氏:

・まちづくりをしたいなら、大人だけではなく子どもの教育にも目を向けてみてはどうか。まちづくりは10年、20年かかり、今の子どもたちは、あと10年経てばまちの主役になる。

・過去に宮崎県日向市でまちづくりをしていた時には、地元の小学校でまちに対する提案をしてもらうワークショップを開催した。この時ワークショップに参加した1人が、最近、市役所職員の試験に「まちづくりをしたい」と応募してきたそうだ。そういうスパンなのだと思う。

対談/内藤廣氏×中川政七

第二部の対談には中川政七も参加。鹿猿狐ビルヂングに込めた想いやまちづくりについて、中川から質問を重ねました。

※以下、対話形式でお届けします。
中川:
最初にお願いしたとき、建物や空間に「中川政七商店らしさ」を、と依頼しました。内藤先生はそれをどう解釈して、どうこの建物に反映してくださったんですか?

内藤氏:
めったなことは言えないなぁ(笑)。
「散らばっているマイナーコードをつなげていくと、違った世界があるんだよ」と中川政七商店は言っている気がしていたんです。散らばっているもの自体は孤立しがちだけど、繋がっていくと文化の層が見えてくると。

ここも表通りに面している場所ではないので、ちょっと引いた場所で動いている時間が、この場所で実現できたらシンクロするところがあるのかなと思ったんですね。

中川:
先日プレス発表用に内藤先生からいただいたコメントで、「軽やかでありながら品があることを目指した」とありました。その軽やかでありながら品がある、というのは建物のどんなところに表現してくださったんでしょうか?

内藤氏:
木造で建てることも考えましたが、木造だと鈍重になる。また木造は皆さんの知っている印象の範囲にとどまるかもしれないと思いました。スチールを使って出る軽やかさは、未来を向いている部分が表現できます。無節操にやるのではなく、伝統の精神や空間の刻み方をわきまえてつくれば、品格を出せると考えました。
中川:
鹿猿狐ビルヂングの「時蔵」にある中川政七商店300周年の時につくった、奈良の伝統工芸である一刀彫の鹿と、名和晃平さんがデザインした3Dプリンタでつくった鹿の、2体の鹿ともシンクロしているなと感じています。古いことを大切にしながら、ちゃんと未来を向いていると。
時蔵の2体の鹿
内藤氏:
この空間もそうですよね。瓦屋根や若草山、興福寺の五重塔を見ながら、新しいことを考えられる空間はなかなかない。建物を褒めていただくのも嬉しいですが、長い歴史を見ながらこの場所で未来のことを考え、チャレンジしていくというのは、とても面白いことだなと思います。
中川:
まちの話も聞かせてください。まちとは何なのか、まちを形づくっているものは何なのか内藤先生の目線で教えてほしいです。

内藤氏:
実は、人は都市を見たことがありません。どこからどこまでが都市なのかわかりませんよね。まちも同じで、どこからどこまでがまちなのかわからない。境界はなく、文化に対する共通認識を持っている人が集まっている場が“まち”なのだと思います。

中川:
自分はN.PARK PROJECTで「まちづくりをしよう」と考えたとき、まちとは何かを考えていき、人や店というキーワードが出てきました。家や人は自分たちではどうにもできないけど、店ならどうにかできる。自分たちが関われる、まちの味をつくっているものは店なのではないかと考えています。それについてはどう思いますか(笑)?

内藤氏:
それに回答するのは恐れ多いな(笑)。
参考になるか分かりませんが、以前に湯布院の中谷さん(※湯布院のまちづくりのキーパーソンである中谷健太郎さん)に会ったとき、中谷さんが「俺たちがいい生活をするんだ」と言っていたのが頭に残っています。

都会の人を意識してどうこうではなく、美味い酒が飲みたかったら美味い酒をつくるんだ、というような。その考え方が地方のまちづくりや、観光の本質なのではないかと思うんですよね。自分たちのいい生活を、都会の人におすそ分けするというイメージです。

中川:
すごくわかります。うちは9割の社員が県外出身者で、最初は奈良を楽しんでいるけど、3年くらいたつと表情が怪しくなってくる(笑)。奈良には刺激や面白い場所が少ないからだと思います。だから、まずは自分たちが面白がれるお店を増やしたいと思っています。自分たちが思ういい店をコツコツつくっていく。そこにいる人が楽しそうだったら、やってくる人も楽しいんだと思います。
中川:
歴史的にまちづくりにはどんな変遷があって、そこで内藤先生はどんなことを考えていらっしゃるのか、もう少し聞かせてほしいです。

内藤氏:
補助金もまちづくりも、昔から中央集権的なトップダウンで、中央から降りてくる仕組みができてしまっています。でも、あるまちが「こうなりたい」と合意し、そのサポートに国の補助金をどう使うのかと考えるのが本来の流れだと思います。

今は補助金ありきで、それに振り回されている。本来はまちが「こうなりたい」とはっきり言うべきだと僕は思うんですよ。

今はあまり皆さんが困っていないのかもしれないけど、補助金行政はこの先必ず行き詰まるので、まち単位で議論をして自分たちの意思を固めるのがいいと思います。まちづくりに対する住民の意思をできるだけ反映してくれる政治家に投票するのがいいんじゃないかな。

住民間でまちに対する合意形成をするのは大変ではあるけれど、「こうするんだ」と強いイマジネーションを持って臨むのが大切だと思います。

自分自身がまちづくりに関わるときは、まちに通って2~3年ほどするとまちの味が分かるようになってくる。それをどうやって活かすかをできるだけ考えるようにしていますね。

中川:
まちに対するビジョンやイマジネーションを持って頑張ります。ありがとうございました!
<イベントを終えて>

今回のイベントは鹿猿狐ビルヂングで働く我々・中川政七商店の社員にとっても、空間や建物に対して込めた想いや、まちづくりのポイントなど非常に学びの多いものとなりました。歴史と未来のまじりあうこの空間で、奈良の地にわくわくするような仕掛けをたくさんつくっていきたいと改めて想った本イベント。皆さんもぜひ鹿猿狐ビルヂングやJIRINにお越しいただき、この感覚を感じていただければ幸いです。

ゲストプロフィール

建築家・東京大学名誉教授 内藤 廣
1950年生まれ。早稲田大学大学院修士課程修了後、フェルナンド・イゲーラス建築設計事務所、菊竹清訓建築設計事務所を経て、1981年内藤廣建築設計事務所を設立。2001~11年東京大学大学院工学系研究科社会基盤学専攻において教授、東京大学にて副学長を歴任。2007~09年度には、グッドデザイン賞審査委員長を務める。主な建築作品に、海の博物館、牧野富太郎記念館、島根県芸術文化センター、虎屋京都店、富山県美術館、とらや赤坂店、高田松原津波復興祈念公園 国営 追悼・祈念施設、東京メトロ銀座線渋谷駅など。
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