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【イベントレポート】SMALL BUSINESS LABO セミナー 環境大善・窪之内 誠さん・鎌田順也さん

#JIRIN#オンライン
2023.02.02
2023年1月15日、鹿猿狐ビルヂング3階・JIRINにて、SMALL BUSINESS LABO セミナーを開催しました。7回目となる今回のゲストは、北海道北見市で事業を営む環境大善の代表・窪之内 誠さんと、外部デザイナーとして経営を支える鎌田順也さんのお二人です。

お父様からの代替わりで経営を引き継ぎ、看板商品である天然成分100%の消臭液「きえ~る」のリブランディングに着手した窪之内さん。そこからわずか数年で、商品の中身を変えることなく売上70%増を実現しました。そしてその躍進には、鎌田さんが大きく貢献していたといいます。

当初はパッケージのリデザインを目的に始まったプロジェクトでしたが、その後進めていく中で徐々にその様相は変化を見せ、何と最終的には企業理念の制定や社名変更にまで及ぶこととなった今回の取り組み。

結果として商品の売り上げが大幅に改善されただけでなく、インナーブランディングにも良い影響を与え、直近では「Forbes JAPAN SMALL GIANTS AWARD 2022-2023」部門賞(ローカルヒーロー賞)も受賞。北海道のいち中小企業だった環境大善は今、さまざまな方面から注目を集める存在となっています。

企業がブランディングに挑戦し、思うような結果に至らない例も数多くある中、環境大善では何が他社との差を分けたのでしょうか。この記事では当日の内容から、一部を抜粋してご紹介します。

“いいデザイナー”って何だろう?

「いいデザイナー知らない?」

これは、私たち中川政七商店が様々な分野の事業者と仕事をする中で、よく聞かれる質問です。

「いい」の基準は人それぞれ。デザイン技術が高いことを指す場合もあれば、安価で案件を受けてくれることを指す場合、その他企業の体力やフェーズにもよって「いい」の基準が変わることもあるでしょう。

ただ今回のセミナーを聞いて、一つ答えが見つかったように思います。それは「デザインを届けきることにコミットしきってくれること」。発注を受けた案件を、見た目に素敵なデザインでアウトプットすることは、技術力の高いデザイナーであれば多くの方が可能です。

しかし、それと「デザインが届くか」は別の話。思いを込めてロゴやパッケージをデザインしたものの、クライアントの理解が得られなかったり、途中でリブランディングのプロジェクトがうやむやになってしまったり、一瞬売れてその後は鳴かず飛ばずとなったり。そんな悔しい思いをした経験は、多くのデザイナーにとって身に覚えのあることではないでしょうか。

届いてこそのデザイン。

当初「きえ~る」のパッケージデザインを刷新する目的で始まった環境大善のリブランディングは、「届ける」ために、なんと、足かけ3年かかってパッケージデザインまでたどり着いたといいます。その3年にわたるプロジェクトでまず行ったのは、商品ではなく、会社自体のリデザインでした。
提供:環境大善

目指す世界の実現には、コミュニケーションが必要

玉ねぎやハッカが有名な街・北海道北見市。環境大善がここで営むのは、消臭液や土壌改良材、植物の保護液などの製造販売事業です。

代表商品の消臭液「きえ~る」をはじめ、環境大善が手掛ける商品の原料は、実は牛の尿。現代表である窪之内さんのお父様が事業を始めた1990年代当時、牛の多い北海道では、牛の尿が川に流れ込み公害となっていました。
セミナー時のスライドより(提供:環境大善)
肥料としての用途もあるものの、牛の頭数に対し使用できる面積には限界があり、必要以上の使用は臭いや土壌を傷める原因に。毎日大量に出てしまう牛の尿をどう処理するかは、その地に住む人々にとって頭を悩ませる課題だったといいます。

その悩みの解決を目指し、農家や酪農家が牛の尿を無害化するため取り組んだ結果、「きえ~る」のルーツとなる処理方法が生まれることに。そしてその後、当時ホームセンターで働いていた窪之内さんのお父様がこの液体に消臭の効果を見出したことを機に、消臭液として製品化し、ホームセンターを中心に販売を開始します。ただし当初の商品は、効果はあるもののデザインの観点は薄く、なかなか広く届きにくい状況だったそうです。

「1998年に発売されたのですが、もともとはアイデア商品のようなパッケージで、必要とする方だけが買うような品でした。ですが、いまや百貨店やアッパーな雑貨店、通販会社などで取り扱っていただいていて、それはやっぱりデザインやコミュニケーションの力だなと思います」(窪之内さん)

事業承継フェーズに入り、初代社長のお父様から経営を引き継ぐことを念頭に、家業に入られた窪之内さん。より多くの方に手に取ってもらうため、様々な書籍を読んで勉強するなかで出会ったのが、中川政七商店会長・中川政七が著した「経営とデザインの幸せな関係」でした。この本を読んだことをきっかけに、パートナーとなるデザイナーを探し始めたといいます。
経営者がデザインを知り、デザイナーが経営を知り、共通言語を持つことの大切さが記された同書籍。「自分もこんな関係をデザイナーと築きたい」。そう考えた窪之内さんが鎌田さんに巡り合うまでに会ったデザイナーは、なんと10名以上にのぼったそう。腕があると言われる方にもたくさん会うものの、しかし、どの方も範疇がパッケージデザインに留まり、その背景にある、企業の目指す世界観への感心や、経営についての理解までの期待はできなかったそうです。

「環境大善では『きえ〜る』と同じ原料をもとにした土壌改良材などの商品を、日本だけでなく海外へも輸出しています。効果検証も重ねていまして、例えば一般的な肥料に弊社の商品を加えることで、植物の育ちが良くなる結果も出てるんですね。そうやって、牛の尿に大きく付加価値をつけて世の中に届けることを私はやりたくて。でも、私の想いや喋りだけではダメなんです。ちゃんとコミュニケーションをして、ビジュアルで見せていく。そのために鎌田さんとお仕事をしているんです」(窪之内さん)
セミナー時のスライドより(提供:環境大善)
セミナー時のスライドより(提供:環境大善)
人々が環境大善の商品を使用することで、意識せずとも環境被害から地球を救い、地球環境に貢献する。そんな環境大善独自のアップサイクル型循環システムを築き上げることを胸に事業に励む環境大善。リブランディング開始時にはまだ整理・言語化されきっていなかったものの、窪之内さんの想いは当時からずっとそこにありました。そしてその実現のため、デザインの力を必要としたのです。

「パッケージを作るまでに3年かかります」

商品を広く届けるために、まずは「きえ~る」のパッケージを刷新したいとデザイナーやアートディレクターを探し始めた窪之内さん。しかし中川の書籍を読んだことから、パッケージを変えただけではロングライフな品にはならないとの懸念もありました。

「その時に会った多くのデザイナーから言われたのは、『環境に貢献するいい商品なので、パッケージを変えれば売れますよ』という言葉。でも腑に落ちなくて」(窪之内さん)

そうして10人以上との面会を重ね、やっと出会ったのが鎌田さんでした。

「最後の最後で鎌田さんに会って。で、お会いした時に『パッケージを作るまでに3年かかります』って、衝撃的な言葉を頂いたんですよ(笑)」(窪之内さん)
「パッケージのリニューアルは1年くらいでできるんです。ただ、それで事業が上手くいくとは限らない。結果をしっかり出すためには、メンテナンスを含め2~3年は必要なんですよ。あとは、何回か面談をするなかで、ブランド自体をしっかりさせてからパッケージへ進んだ方が環境大善にとっては良いんじゃないかなと思い、そうお伝えしました」(鎌田さん)
当時、理念も何もなかったという環境大善。鎌田さんの提案はそこからつくるべきだというものでした。また同時にプロジェクトをスタートするにあたり、鎌田さんはいくつか事前の取り決めも提案したといいます。
セミナー時のスライドより(提供:環境大善)
「一番大切なのは、会社の持続可能性。そのためには適切な予算管理が必要だということで、まずは会社の決算書を3期分提出してほしいと言われました。普通は『え!?』って驚くんでしょうけど、私は中川さんの本を読んでたから何の疑いもなく、すぐにお出しして(笑)。

これがすごくよかったのは、決算書を見ていただくことでうちの粗利益や営業利益もわかるから、めちゃくちゃな見積もりが出されなかったということですね。ちゃんと持続的に付き合っていけるご提案を頂けました」(窪之内さん)

「決算書では販管費の内訳と売上、粗利を中心に見ていますね。ブランディングは経営に対して大きな判断をしなくてはいけないことも多い。決算書からは現実的な資金面が読めるので、どんな手が打てるか、どのくらいの時間がかけられるかなどがわかります。

例えば環境大善さんは利益率が高く、時間をかけて丁寧にブランディングを進めても事業が継続できる企業でした。逆に利益率が低く資金面がしんどい企業は、すぐに目の前の売り上げを上げるような施策から始めます」(鎌田さん)

「まずは最初に、環境大善が鎌田さんに診察を受けたということ。頭が痛いって伝えたけど、それは肩こりが原因ですよ、みたいな話ですよね」(窪之内さん)

「それ、いい例えですね。デザイナーはお客さんの言うことを聞かなければいけないという雰囲気があるけど、風邪じゃないのに風邪薬を出したって世の中にデザインは機能していかないから」(鎌田さん)

社名変更「環境ダイゼン→環境大善」

契約時に決算書から予算感とできること、できないことを決めただけでなく、著作権などの契約形式も取り決めた両者。これにより各内容の対応者や判断可能な範囲が明確になり、より信頼関係が強化されました。

デザインの判断に関しては、経営者と同等の権限をアートディレクターが持つような組織の実現も可能となり、毎回経営者に稟議を上げるようなフローがなくなったことで事業のスピード感も増したといいます。
セミナー時のスライドより(提供:環境大善)
取り決めをした次に、時間をかけて行ったのはSWOT分析。そうして会社が置かれる状況を分析していくうちに、会社全体の理念からつくり直す必要があると考えるようになり、会社の大切にしたい価値観について検討を重ねた結果、「発酵経営」という理念をつくり上げます。

その後まずは、社員に想いを伝えるためのブランドブック「環境ダイゼンの考え」を作成。リブランディングの一つ目の作品として、鎌田さんがデザインしました。
環境大善が発行したこれまでの冊子
そこからは当初予想もしていなかったアウトプットで、怒涛の改革へ。事業計画などの経営指針を記した社員手帖「経営指針の書」を作り、ついには企業名も変更することとなりました。お父様の元勤務先であり、消臭液開発の舞台でもあった「ホームセンターダイゼン」から名を取り、社名を「環境ダイゼン」としていたものを、「環境大善」と漢字に変更したのです。

「社名について、もともとは全く変える気はなかったんですよ。ただ、消臭液も土壌改良材も、善玉菌を増やして悪玉菌を抑えることで効果を発揮しているんですね。『発酵経営』という理念を検討していく中で、カタカナの『ダイゼン』ではなく、大きく善いことをすると漢字にしたほうが、企業が提供する価値を明らかにするし、一本筋が通った説明ができるなと。それで『ああこれは変えたほうがいいね』って」(窪之内さん)

「デザインって全てを顕在化させるんですね。今までモヤモヤしていたものを、明るみにする役割を持つんです。そうやってブランディングを進めたときに、このカタカナの社名だと説明がつきにくいなと」(鎌田さん)
セミナー時のスライドより(提供:環境大善)

社員のリテラシーやモチベーションが変化

またその他に、ロゴも新たに制作。善玉菌の「善」の字をモチーフに、“善玉菌の大善君”と名付けられたロゴが開発されました。

「ここまでの経緯で企業の方向性をお互いにすり合わせているので、例えば『環境に取り組む企業が赤色を採用するのはないよね』のような、デザインのことが分からない方も好みに頼らずちゃんと判断していける、デザインのものさしが出来上がっているんですね。これがすごく大事です」(鎌田さん)
セミナー時のスライドより(提供:環境大善)
こうして出来上がったロゴは、名刺や社章に展開。また商品の包装紙やショッパーもロゴを用いてデザインした他、ワークウェアに忍ばせたり、社屋の外観にも描くなど、あらゆるタッチポイントに使用していきました。
セミナー時のスライドより(提供:環境大善)
さらには請求書や領収書、封筒など、一般のお客様が目に触れない場所にも採用。窪之内さんいわく、これがインナーブランディングに高く寄与したそうです。

「バックオフィスの人って一般的にブランディングにはあまり関係ないですが、仕事のうえで目につく場所に置くことで、リテラシーが上がったり愛着を持ってくれるようになったりしたと思います」(窪之内さん)

「デザインとは、審美性に基づいた計画的な行為のこと。それをバックオフィスの方にも感じてもらうために、社屋に描いたり請求書にまで採用したりをやっているんですね。こっちの方が心地いい、ということが身をもって分かってくれば、それがお客様に対する接客態度に繋がって、結果的に経営にも影響してくる。その目的で取り組んでいるんです」(鎌田さん)
セミナー時のスライドより(提供:環境大善)
そうして3年経った頃、ようやくもとの目的であったパッケージデザインに取り掛かったのでした。

結果としてリブランディングされた「きえ~る」は、もとの商品に比べ売上が70%増。その後も勢いは留まる様子を見せません。さらに様々なデザイン賞を受賞するばかりか、ファッション誌からビジネス誌まで、メディアにも多く取り上げられるほどとなりました。
セミナー時のスライドより(提供:環境大善)
「たぶんパッケージだけリニューアルしても、短期的には今と同じ売上にはなったと思うんです。でも環境大善さんは、消臭液も土壌改良材も基本的に商品が各一つだけ。『これがダメだったから、こっちを売ろう』というわけにはいきません。

そう考えたときに、この商品が長く売れ続けるためには、企業のストーリーに共感した人がこれからも買い続けるという状況を作った方がいいと思い、先に企業のブランディングから手を付けたんです」(鎌田さん)

デザインを届けきる

「価値が底上げされ、活動が一つに見えている状態がブランディング」と話す鎌田さん。全体最適を行う上で、デザインの力をどう使うかが非常に重要だと続けます。

「正しく使わないとデザインが力を発揮できない」。その課題を解決するため、つまりはデザインを届けきるために、まずは経営を理解する重要性を感じ、勉強を始めたのだといいます。

想いを実現できるパートナーを選び、自身もデザイナーと対等に話せるよう学びを深めた窪之内さんと、経営者の想いを実現するために、経営の根幹から関わりあらゆるデザインで解決していく姿勢をとる鎌田さん。

経営とデザインが共創し、単なるパッケージ刷新に留まらない取り組みがあったからこそ、「きえ~る」は多くの方の共感を呼び、支持されるブランドへと育っていったのです。

これから挑戦する人へひとこと

最後に、これから起業する人、いまチャレンジしている真っ只中の人へ向け、お二人からメッセージをいただきました。

「経営者は実行するのは当たり前で、いかに実現させていくかが大事。これを短いスパンでいかにやっていくかを、経営者になってからずっと考えています。実現させるために何が必要かを皆で考えていけば日本はもっと良くなっていく。皆さん、ぜひ一緒に頑張りましょう!」(窪之内さん)

「デザイナーにとって経営ってブラックボックスですよね。私がなぜ経営に興味を持ち始めたかと言うと、『どうしてデザインは最終的に社長の好みで決まってしまうんだろう』という疑問からだったんです。いいデザインをつくるには、経営に興味を持った方が絶対デザインが面白くなる。ぜひ、興味を持っていただければと思います」(鎌田さん)

本当の意味での「いいデザイン」を実現するために、経営者にとってもデザイナーにとっても学びの深かった今回のセミナー。窪之内さん、鎌田さん、ありがとうございました!

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文:谷尻純子(中川政七商店 編集・広報)
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