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【イベントレポート】奈良にいい会社をつくろうサミット

#その他#パートナー
2023.12.25
奈良に“いい会社”をつくる「N.PARK PROJECT」に取り組む中川政七商店が主体となり、開催したカンファレンス「奈良にいい会社をつくろうサミット」。

当日は有識者による基調講演や、県内で活躍する先輩事業者によるパネルディスカッションの他、新規事業を対象にしたビジネスコンテストなどを実施。約150名の参加者とともに、県内に産業と雇用を生む「いい会社」をつくる機会となることを目指しました。
この記事ではイベントの様子をご紹介いたします。

プログラムや登壇者プロフィールなどについての記事はこちら:
https://n-park-project.jp/topics/event/5300

開会の挨拶

イベント当日は晴れた空の広がる12月上旬の月曜日。ひんやりとした冬の空気のなかイベント準備を進め、朝10時の開会を迎えました。

月曜日の朝早くからにも拘らず、客席には100名を超えるお客さんが。奈良はもちろん、県外からも、行政職員や民間企業の会社員、フリーランスでまちづくりに取り組む方、その他学生など、様々な属性の方々にお集まりいただきました。

「奈良にいい会社をつくる」というゴールは理解しつつも、奈良県としても恐らく初めての試みとなる大規模なまちづくりカンファレンス。不安と期待の混じったような声が各所から聞こえてきます。

開会の挨拶は、N.PARK PROJECTを主宰する中川政七商店の代表取締役会長・中川政七から。なぜ、私たちがこのイベントを開催するのかについて話がされました。
中川:
「中川政七商店は『日本の工芸を元気にする!』というビジョンを掲げて、ここ20年取り組んでまいりました。そこでは産地の一番星を作ろうと、産地単位でいろんな応援活動をさせてもらっているのですが、ここ5年ほどは改めて、『地元である奈良を盛り上げることにも注力したい』と活動を続けております。

奈良に注力するにあたって決めたのは、奈良は輪島や有田のような分かりやすい工芸産地ではないため、工芸産地という視点ではなく、街という視点で取り組むことです。ただ、まちづくりはいろんな場所で行われているものの、『街って何だろう?』『街を良くするってどういうことなのか?』が、意外とわからない。N.PARK PROJECTはそこを考えるところからスタートしました。

いろいろ捉え方はあると思うのですが、私たちが至ったのは、いいお店、いいサービス、他にはもちろん観光スポットも含めて、『そこにしかないいいものが、どれだけあるか』が街の価値であり魅力ではないかということです。

奈良の場合、圧倒的な歴史遺産には恵まれていますが、それは私たちがどうにかできるものではありません。しかしそれに対して、いいお店やいいサービスは、企業を経営している者として力を発揮できることがある。お店やサービスを提供する母体は会社です。そう考えると、いい会社を増やすことこそが、奈良の街の魅力を上げることに繋がるのではないかと思うのです。

では、改めて『いい会社』とは何なのか。株式会社である以上、お客さんに喜んでもらって利益を上げることも必要ですが、地球環境や人権に配慮した行い、いわば共通善がちゃんと果たせていることも必要ですし、それだけではなく、企業が個別に掲げている目指すべき世界、いわば個別善も大切です。つまり、利益・共通善・個別善が揃ってこそいい会社と言えるのではないか。そう考えて、当社では特に個別善に焦点を充てながら、今まで奈良の事業者さんに向けた様々な活動をしてまいりました。

このサミットをきっかけに、皆さんの熱い想い、つまりそれぞれの個別善が実現に向かうことで、結果として奈良の魅力が上がっていく。そんな流れをつくる第一歩のイベントになればと思っています」

【プログラム①】基調講演:「地域経済のリアルと奈良の可能性」

開会の挨拶の後は、プログラム一つ目の基調講演。一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンス代表理事として、全国でまちづくりの事業に取り組んできた木下斉さんによる、地域経済のリアルと奈良の可能性についての講演です。

約60分のステージでは、木下さんが取り組んできた事例の解説に加え、「奈良の価値をどう捉えるか」「街の活性化に必要な思想・アクション」「まちづくりが上手くいかない理由」「街の未来をつくるにあたっての、民間企業の役割」などに言及。

地域を共益とし、官民それぞれに支えていくことや、企業同士が手を取り合いノウハウを共有する重要性が語られました。

【プログラム②】パネルディスカッション:「奈良に必要な地域ブランディングとは」

続いてはそれぞれのフィールドで奈良のまちづくりやブランドづくりを担当する方々による、パネルディスカッションです。登壇いただいたのは、奈良県 地域デザイン推進局次長兼 観光局次長の竹田博康さん、奈良市 総合政策部秘書広報課 課長補佐の川畑理絵さん、合同会社オフィスキャンプ 代表社員 クリエイティブディレクターの坂本大祐さん。ファシリテーションは中川政七が務めました。
プログラム内では、主に3つのテーマについて、中川が登壇者3名に意見を求めていきます。一つ目のテーマは「奈良のブランディングについて考える際、どの範囲をブランディング対象の“奈良”と考えるか」。二つ目は「ブランディングにあたり、誰に、どんなイメージを持ってもらうか」、三つ目は「ブランディングのために、メッセージはローコンテクスト(文脈の共有性が低く、知識やカルチャーの理解がなくても伝わること)とハイコンテクスト(文化や価値観、文脈などの共有性が高いこと)のどちらに振っていくべきか」です。

「奈良には修学旅行で来て、次に来るのは仕事の引退後という方がとても多い。この間を埋める(=間の年代をターゲットとする)ことが大切」

「奈良は本来、ハイコンテクストな地域。だから修学旅行で来てもまだ魅力がわかりにくくて、楽しくないのでは?この時期に来てもらっていることが逆にネガティブになっていると思う」

「ローコンテクストはわかりやすいけど、他で代替できるから心変わりしやすい。一度食べたら満足という感覚、つまりわかった気になってしまうのでは」

といった、奈良に住む者としても、地域を表現していく立場としても、大変興味深い対話が繰り広げられました。

【プログラム③】学生プレゼンテーション

お昼休憩を挟み、午後一つ目のプログラムは学生によるプレゼンテーションです。登壇いただいたのは、未来のいい会社・人材を育てることを目的に、中川政七商店が事前に開催していた学生向けプログラム「経営とブランディング講座 for Students」の、優秀者2組。

1組目の阿修羅三つ巴Radio!チームからは、自分たちで企画運営するラジオ番組に関して、また2組目の近畿大学大学院農学研究科・清水和輝さんからは、自身が事業として注力する昆虫食をテーマに、事業の背景や想い、マネタイズプラン、今後の展開についてをお話しいただきました。

【プログラム④】フロントランナーセッション:「奈良のフロントランナーが考える『いい会社』とは」

続いて実施したのは、奈良をリードする2人の経営者によるトークセッションです。「いい会社」のフロントランナーとして、桜井市・三輪で360有余年醸す「みむろ杉」「三諸杉」などの日本酒づくりに取り組まれている今西酒造 代表・今西将之さんと、山添村で「ちょっと不自由なホテル」をコンセプトに宿・ume, yamazoeを運営されるオーナーの梅守志歩さんにご登壇いただき、中川政七商店の安田翔がファシリテーションを務めました。
「いい会社」に至るまでの具体的な苦悩やチャレンジについて、当時を振り返りながらお話しをいただいた後、最後に安田から「いい会社とは?」「いい会社を作っていくとは、どういうことだと思うか」の質問が。2人が苦笑いしながらも、真摯にお答えくださいます。

今西さん:
「わかれば簡単なんですけどね(笑)。これに関しては自分たち自身も、もっとチャレンジをしていくところだなと思います。結論は『わからない』なんですけど、ただすごく大切にしている考え方があって。“天職”っていう考え方です。これは家業を継いで右も左もわからなくて絶望の淵にいたときに、大神神社の宮司さんから頂いた言葉。今も会社経営をするにあたっての指針にしている言葉なんです。

いわく、『天職ってよく向いている仕事という意味で使われるけれど、天から授かった仕事のことなんですよ。今西くんは酒屋に生を授かった時点で、酒造りを通じて世のため人のためになりなさいと天から導かれているんです』という話でした。そこからはそれを信じて、大事な考え方にしています。飲み手の方のためでもありますし、社員のためでもあるけれど、とにかくブラさずやっていきたいなと思っています」
梅守さん:
「難しいですね、いい会社かぁ(笑)。私もまだ模索中なのですが、いつも立ち返るのは『自分は何のために生きてたんだっけ』とか『何のために仕事してたんだっけ』という考え方です。それを自分のなかで一回決めるのが大事だと思ってて。自分としてもそうだし、会社としても一度決めて、そこに立ち返ることができれば大きくブレないと思うんです。

業種業態が変わっていって新たなチャレンジがあっても、その言葉を軸にしながらチャレンジしてみることを大事にしていけたらなと思います。言葉があれば、戻ってこれますから。そうやって自分もそうですし、うちの社員さんのなかで『やりたい』の声が上がったときに、必ず背中を押せる存在でありたいなと思います」
なお、お2人へは過去にN.PARK PROJECTの「事例紹介」コーナーでも取材を行っています。ぜひ併せてお読みください。

※今西さんを取材した記事はこちら
今西酒造の十四代 蔵主は元人材会社のエース。日本酒発祥の地で酒造りを究める今西将之さんは、なぜ“普通”じゃないキャリアを重ねたのか

※梅守さんを取材した記事はこちら
奈良の“ちょっと不自由なホテル” ume,yamazoeー「マイナスをフラットまで引き上げる喜び」に気付いた梅守志歩さんの歩み

【プログラム⑤】ビジネスコンテスト

プログラムの最後は、まさに今「いい会社」を目指して奈良で事業に挑戦中の経営者による、ビジネスコンテストです。

発表者は株式会社ライコックスの稲葉泰志さん、吉谷木工所の吉谷侑輝さん、株式会社桂裳苑の森本啓介さん、HIRAKUホールディングス株式会社の中岡崇さん、株式会社川東履物商店の川東宗時さんの5名(以上、発表順)。

稲葉さんは家業である万年筆事業の今後について、また吉谷さんは自社が歴史を重ねてきた木工技術にちなんだ新しい商品・ブランドについて、森本さんは家業の呉服事業にまつわる新ビジネスについてを、さらに中岡さんは自身で起業し進めている福祉事業の今後のチャレンジを、また川東さんは自身のサンダルブランド・HEPの新たな展開や商機について発表いただきました。
映えある最優秀賞に選ばれたのは、株式会社川東履物商店の川東宗時さん。それぞれの発表内容や審査員の講評については別の記事にて詳細をご紹介しているので、ぜひ併せてお読みください。

閉会の挨拶

ビジネスコンテストが終了し、一日にわたって開催してきたイベントも終盤。最後はこのイベントの協賛・運営パートナーとして共に歩んできた、小山株式会社の代表取締役社長・小山智士さんから、閉会にあたり参加者への謝辞とともに挨拶がありました。
小山さん:
「はたして、奈良が持つのは本当に観光資源だけなのか?と思うんです。皆さん、最近封切られた映画『飛んで埼玉~琵琶湖より愛をこめて~』って見ていらっしゃいますか?今回は奈良県民もディスられるような内容らしいんですけど(笑)、いじめられても奈良県民は、大阪府民に憧れるんですよ。そういう健気で少しひ弱い奈良県民というのが僕は大好きで、逆にそれが強みでもあるんじゃないかと思っているんです。

私たちは奈良を本社にしており全国にたくさん拠点があって、多くの奈良県出身の方に転勤で異動をしてもらうのですが、その方々が最後に私に言ってくるのは『定年は奈良で迎えさせてほしい』ということなんですね。それだけ奈良は住みやすくて居心地のいい場所だと思うんです。

今は“奈良府民”なんて呼ばれて、大阪や京都に働きに行ってる奈良県民の方もいらっしゃいますが、やりがいや待遇の高い会社が奈良にあれば、みんな職住近接で、大阪や京都に行かず奈良にいてくれるんじゃないか。そのときに奈良県民の心意気を見せて、他府県に負けない動きができるんじゃないかなと、そんなふうに思いながら今日は聞いていました。

奈良に、やりがいのある仕事のできるいい会社がたくさんつくられるように、これからも皆さんとともに頑張っていきたいと思います。皆さん、今日は本当にありがとうございました」
こうして朝10時に始まったイベントは18時に終了。一日を通じて約150人の参加者にお越しいただきました。

なかには終日ご観覧くださった方もおられ、表情には心地よさそうな疲労感が浮かびます。インプットに次ぐインプットで「月曜日の朝から実施するにはハードでしたね(笑)」という声も各所からあがりましたが、翌日からの「いい会社」に向けて、気付きや学び、決意がたくさん生まれた8時間だったのではないでしょうか。

次回、同様のイベントは3年後を予定。今回ビジネスコンテストに登壇いただいた方々の今後や、また新たな「いい会社」の発掘など、今から次回の開催がとても楽しみです。

奈良にいい会社を増やし、奈良をより魅力的な地域にしていけるよう、時にはそれぞれの“個別善”を追求し、時には協力しあいながら進んでいけたら。ご参加いただいた皆さん、ご興味をお持ちいただき記事をご覧くださった皆さん、応援の声をありがとうございました。では、また逢う日まで。


文:谷尻純子
写真:森アキラ
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