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N.PARK PROJECT#01

奈良御菓子製造所 ocasi オープン記念対談。中川政七×鳥羽周作に聞く「いいお店」の哲学

RELEASE
2022.11.11
どら焼き、チーズケーキ、ジャム。日本で暮らす多くの人に愛されてきたそれぞれのお菓子が重なりあい、新しい体験を生み出す。そんなお店が2022年10月、ならまちにオープンしました。まずはどら焼きとチーズケーキをそれぞれひと口。甘さ控えめのどら焼きと、爽やかな風味のチーズケーキが、やさしく胃に満ちていきます。

「これだけでも美味しいのに、そこにジャム?」そんな風に思うかもしれませんが、ものは試しにひとさじ添えて。シンプルなお菓子に果実の酸味や苦みが重なれば、それまでとは異なる奥深く複雑な味わいが、口いっぱいに広がっていくのです。

普段から当たり前に食べられていたお菓子を、一から見直し新感覚の体験で提供する。

そんな味覚の体験を生み出したのは、レシピ監修を務めた一つ星シェフ・鳥羽周作さんです。

ここ「奈良御菓子製造所 ocasi(以下、ocasi)」は、中川政七商店が取り組む奈良のまちづくり・N.PARK PROJECTの一環で、鳥羽周作さんとの協働プロジェクトとして誕生したお店。「いいお店をまちに増やすことで、住まう人も訪れる人も魅力的に感じる奈良のまちをつくる」。そんな想いをもって事業を展開するN.PARK PROJECTの志を応援したいと、鳥羽さんは心強いパートナーとなってくださいました。

2021年には中川政七商店による初の複合商業施設・鹿猿狐ビルヂングのテナントに、鳥羽さんチームが手がけるすき焼きレストラン「㐂つね」が出店。そしてocasiは共に取り組む事業の第二弾となりました。

今回の記事ではN.PARK PROJECTを推進する中川政七商店会長の中川政七と、鳥羽周作さんに、ocasiのオープンにあたってそれぞれが改めて考えた「いいお店の哲学」を聞いてみます。
奈良御菓子製造所 ocasi
「水菓子、和菓子、洋菓子。三つのお菓子が重なりあう『奈良御菓子』」をコンセプトにした、中川政七商店による菓子店。いいお店を奈良の街に増やすことで、奈良を元気にするまちづくり・N.PARK PROJECTに取り組む中川政七商店と、「幸せの分母を増やす」をモットーに、レストラン展開や食のプロデュースを重ねてきたsio・鳥羽周作氏の協働プロジェクトとして誕生した。
ー長きにわたってプロジェクトを進めてきたocasiがついにオープンとなりました。鳥羽さんには完成したocasiを本日初めて見ていただきましたが、ご感想はいかがですか?
鳥羽周作(以下、鳥羽):
もう最高。予想のはるか上をコンテンツを追加いっていましたね。これまでにお店は何軒も作っているんですけど、あんなに予想よりもいい感じに仕上がったお店はなかなかないです。奈良の街の中での立ち位置が良かったですね。新しいけど尖りすぎてない絶妙のラインで、ディティールを見るとしっかり作り込まれている。柔らかい圧倒感というのかな、そういうのを感じました。自分の会社にあんな店があったらいいなと思いました(笑)。
鳥羽周作(sio / シズる株式会社 代表取締役)

J リーグの練習生、小学校の教員を経て、31 歳で料理の世界へ。
2018年「sio」をオープン。同店はミシュランガイド東京 2020 から 3 年連続一つ星を獲得。現在、「sio」「Hotel's」「o/sio」「o/sio FUKUOKA」「パーラー大箸」「㐂つね」「ザ・ニューワールド」「おいしいパスタ」と8店舗を展開。書籍 / YouTube / SNSなどで公開するレシピや、フードプロデュースなど、レストランの枠を超えて様々な手段で「おいしい」を届けている。モットーは『幸せの分母を増やす』。
中川政七(以下、中川):
建築設計をお願いしたikkenさんがすごくいい仕事をしてくださいました。パッと見ると良くてもディティールが甘いというお店は結構あるけど、ikkenさんは家具工房も持っているので細かいところもしっかり作り込んでくださった。これって料理にも通ずるところはありますよね。

鳥羽:
そうですね。料理とか洋服でも同じで、カッコいいものを作ってるお店はあるけどディティールがやり切れてないと嘘っぽくなっちゃう。一流の方は皆さん言ってます。今回のocasiはそこまで気を配れているのが良かったですね。

中川:
それも本当にそうですし、今回はお菓子屋さんなので全体が良くても肝心のお菓子が良くないと、それはそれで残念な体験になる。そこは鳥羽さんに入ってもらいクオリティをしっかり担保してもらいました。"普通に美味しい"は世の中にたくさんあるけど、そこを一歩超えていく体験に仕上げてくださったので僕たちも胸をはって商売がやれます。

鳥羽:
今日ocasiを見に行ってみてお客さんの年齢層に偏りがないなと感じました。どちらかというと上の世代の方が好むどら焼きと、若い世代にウケやすいチーズケーキをジャムが繋いでいて、全ての世代に愉しんでいただいている。そこに本質とか新しさがありますよね。これはすぐに消費されちゃう「ファッション」じゃなくて、10年、20年続けられる「カルチャー」になるなと思いました。
ーお2人は一見するとタイプが異なりそうな印象を受けますが、oacsiのプロジェクトはスムーズに進んだのでしょうか?
鳥羽:
中川さんとの取り組みでやりやすいのは、出口が決まっていること。言い方を変えると「ビジネスとして成立させる」意識がちゃんとあることですね。これが職人だけとかビジネスパーソンだけのチームになると、「どっちかがあって、どっちかがない」という状態になりやすい。

中川:
そうなんですよね。トータルの戦いなので。
中川政七(株式会社中川政七商店 代表取締役 会長)

1974年生まれ。京都大学法学部卒業後、2000年富士通株式会社入社。2002年に株式会社中川政七商店に入社し、2008年に十三代社長に就任、2018年より会長を務める。「日本の工芸を元気にする!」というビジョンのもと、2009年より業界特化型の経営コンサルティング事業を開始。現在は奈良県のGDPを上げるプロジェクト「N.PARK PROJECT」を提唱し、数多くの魅力あるコンテンツ創出を目指す。
鳥羽:
今回はチームとして戦闘力が高かったですよね。中川さんはビジネスやブランディングができるうえで料理のこともちょっと知ってくれている。一方、僕も料理が得意でビジネスのことも少し知ってる。お互いの共通言語がちゃんと持てていて、いい意味で乳化していたのが良かったと思います。

中川:
引くところと出なきゃいけないところのバランスも大切ですよね。例えばクリエイティブ。今回のocasiでは小林一毅さんにお願いしたわけだけど、クリエイティブは人選びが重要です。その方にオリエンテーションをしたうえで投げていただいた球(=提案)は、ある程度の微調整はするとは言え信じて受け止めなきゃいけないし、信じきれないなら降りてもらわないといけない。

色んな球の中でどの球なら成立しそうか、その可能性を模索していきます。ocasiでは建築をお願いしたikkenさんとも、建物がクリエイティブを受け止められそうか打ち合わせを重ねました。

鳥羽:
中川さんが言ったことの中で一番大事なのは「信じきれないなら降りてもらう」というところ。クリエイターにとって働きやすい環境をつくる心得を持っているんですよね。「いいものを創りたい」と思わないクリエイターは絶対いなくて、あとは発注者側の好みの問題。アウトプットに何だかんだと言いすぎると、クリエイターは「それなら自分じゃなくてもいいんじゃないか」となってしまう。そこを中川さんがクリエイティブディレクターとして任せきったというのは最高の環境だと思います。

中川:
それは味の面でも同じことが言えますね。味って万人が自分の感覚を持ってるから、すごく主観的に口出しやすいもの。ocasiのレシピを調整しているとき、最後にAとBの2つのチーズケーキで悩んでいました。最終的には自分はAが好きだったけど、鳥羽さんは論理的に説明してくれたうえでBがいいと言った。それで、鳥羽さんの言うことを信じてBにすると決めました。そしたらその後他の人も「B」となったので、信じて良かったなと。

鳥羽:
ocasiはチームの距離感やリテラシーが本当に高かった。

中川:
でも、プロが集まりお互いに好き勝手やれば上手くいくというわけでもない。お互いがお互いを理解したうえで、任せるところと出るところのバランスを考えていくことが大事ですね。

鳥羽:
適材適所が全体で上手くいき、ocasiは現代のバルセロナですね。

中川:
菓子界のバルセロナ(笑)。
ー鳥羽さんがocasiのレシピを監修いただく際に、特にこだわられたのはどこなのでしょうか?
鳥羽:
全体の体験価値のバランスですね。三味一体で突出しないように。単純にどら焼きやチーズケーキがすごく美味しいということではなく、ちょっと考える時間があるのが新しいと思っていたので、そこの体験をどうつくるかは大事にしました。

例えばocasiプレートだと3つジャムがあることで、自分の好みについて考える時間ができる。コンテンツのなかにお客さんが入り込める場所をつくったことに意味があったと思っています。

中川:
食べるって超日常じゃないですか。“ながら食べ”をすることもあるわけだし。だから食べることに対する意識をどれだけ持ってもらえるか、そこに対する感度をどれだけ上げられるかに、ocasiプレートは成功している気がしていますね。

鳥羽:
コンテンツと体験が決まっているので、ある意味コース料理ですよね。お客さんが好きなものを好きなだけ頼んで食べるのではなくて、体験をお店側がコントロールしている。

中川:
鳥羽さんとお付き合いしているなかで一番衝撃だったのは「コース料理は全部美味しいものを出したらだめ」という発言です。一連の流れのなかで、抑揚と意味をつけながら提供するのが大事と話していましたよね。

鳥羽:
感動するお皿ばかり出しても全体の体験としてはそんなに高くならないんですよね。だからわざと感動させすぎない料理を出すことで、コースの中に高低差をつくるような方法もとっています。

あとは量を多くしないというのも大切。ocasiも控えめな量にしています。お腹いっぱいで「もう食べられない」という状態で帰っていただくのではなく、少し物足りない状態で終わる。それが、「また行きたい」と次に繋がっていく仕掛けなんです。

中川:
美味しいものを出されてお客さん側が我慢するのは違いますもんね。だから、お店側が制御するということ。

鳥羽:
そうですね。あとはお腹いっぱいじゃないからこそ、「家でも食べたい」と思ってお土産を買って帰ってくれるかもしれません。
ー鳥羽さんは「いいお店」をつくるにあたって、今どんなことを考えておられますか?
鳥羽:
ocasiではジャムとのペアリングを提案している一方で、自分のお店(sio、Hotelsなど)ではペアリング自体の体験の見直しを考えています。デザートのような短期局面の合っている・合っていないはいいんですけど、コース料理のような長い時間をかけて体験する料理においては、「このお酒が合っている・合っていない」みたいな話をするのはすごくつまらないなと思い始めていて。

中川:
なるほど。

鳥羽:
ドリンクも単体のコースにして、お皿に関係なくめっちゃ旨いワインが出るみたいな体験を考えています。料理と飲み物が合っているかいないかだけの判断では、食のポテンシャルをしっかり評価することには繋がらないなと思ってるんですよね。最後が良ければいいみたいな話じゃなくて、全体の体験をどう上げていくかです。

自分ではこういった動きを抽象化して、「スペースを見つける」と言っています。つまり誰もやっていない場所に行くということ。

中川:
これが鳥羽さんのすごいところですよね。だって今、まだペアリングの波はきている最中じゃないですか。そしてノンアルコールペアリングの波はまだまだこれからで、sioのノンアルペアリングはとてもいい。そんなときに新しい場所に行くというのが、鳥羽さんらしいなと。

この動きが何から出てくるかというと、目指すところの違いですよね。今このお店が儲かっているかを目指していたらそれ以上何も考えないと思う。でも常に「これじゃいかん」と思っているから、そういう考えになるのだと思います。たぶん「ブルーオーシャン」って感覚もないですよね?

鳥羽:
そうそう。そんなマーケティング的な話じゃないです。自分を動かしているのは危機感ですね。常に次を探している。

僕も中川さんもマーケティングみたいな感覚ってなくて、商売をやっている以上当たり前のようにお客さんが求めているものを考えているし、もう呼吸のようなものです。お客さんが求めているものの斜め上を提案し続けるのがクリエイターだと思うし、チャレンジだと思うんですよね。それで、チャレンジで大事なのが自分のいるべきスペースを見つけることなんです。
ーなるほど、ありがとうございます。改めて、ocasiについてビジネス的な視点で仕掛け方を教えてもらえますか?
中川:
洋菓子と和菓子をどちらも提供しているお店はたまにあるけど、その2つを水菓子で繋いで文脈として成立させているところ(※)ですね。そのポジションをとっているお店はありません。この「文脈が成立しているか」はすごく大事です。

※ocasiでは「水菓子、和菓子、洋菓子。三つのお菓子が重なりあう『奈良御菓子』」をコンセプトに、和洋それぞれのお菓子を水菓子であるジャムとペアリングして食べられるプレートに仕上げることで、それぞれのお菓子が同居することに意味をつくりあげた。また菓子の起源である果物(=水菓子)と、奈良で「三笠」とも呼ばれ愛される和菓子・どら焼き、飛鳥時代の蘇を最古のチーズとし西洋から渡来した後さまざまな深化を遂げた洋菓子・チーズケーキといったように、奈良でこれらのお菓子を提供する意味づけもしている。

鳥羽:
それを東京でやらずに奈良でやっているのもいいですよね。日本のなかでの新しい提案を東京でしていないところも価値だと思います。ローカルでどのようにデスティネーション(=旅行目的地)なものをつくっていくかが時代の流れであるなかで、ocasiはそれを目指してつくったものではないですが、結果的にその代名詞的なお店になるのではと思います。
ー 一方で注目を集めると流行りのように消費されてしまう懸念もありませんか?
中川:
ocasiではちゃんとブランドを建付け、組み立てて、文脈を成立させているのでそれは心配していないです。表層的なものではなく、中身がしっかりあるので。

鳥羽:
あと、僕も中川さんも流行りでお店をつくらないから「始まったら終わり」にならない。始まったら、もう次どうしていくかの話をしているタイプですよね。

中川:
そうですね。流行りのお店をつくることを否定しているわけではなくて、僕たちはそれができないだけ。コツコツ積んでいくのが得意なタイプです。だから㐂つねやocasiは一過性にならなくて、毎年良くなっていくお店になるんじゃないかなと思います。

鳥羽さんと僕に共通しているのは事業会社の経営者であることですね。組織としての戦闘力がないと、どんなにいいプランを書いてもクリエイティブが良くても事業として形になりません。

鳥羽:
そうですね。お互いクリエイティブなことをするのを目的にはしてなくて、あくまで手段として使っているというか。「クリエイティブなことをしたい」というのは承認欲求だったりするんだと思うんですけど、僕たちは事業として成功させたい。そのためにクリエイティブの力を借りるという感覚です。

中川:
本当にそう。お客さんに喜ばれて事業として成立し、その先に目指すべきところがあるということですね。

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INFO

奈良御菓子製造所 ocasi

奈良県奈良市元林院町5番地
公式サイト:HP / Instagram / Twitter

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文:谷尻純子、写真:奥山晴日(ocasi店舗写真)・谷尻純子(対談写真)

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