菩薩咖喱#03
計画があるから、挑戦に踏み切れる
RELEASE
2020.11.01
近鉄奈良駅から歩いていくと、住宅街のなかに見えてくる1軒のお店。ここは「菩薩咖喱(ぼさつかりー)」と名付けられたカレーの専門店です。
カレーが大好きな店主・吉村萌々さんが、イベントでの出店をきっかけに始めた菩薩咖喱。初出店から半年程度で間借り店舗をオープンし、その後すぐに実店舗のオープンに至りました。
実店舗オープン前は、借入も事業計画書の作成も経験がなかった吉村さん。経営を学ぶ必要に駆られたときに知ったのが、株式会社中川政七商店が手がける奈良のスモールビジネス支援プロジェクト「N.PARK PROJECT」でした。
このプロジェクトで、中期経営計画の作成や管理会計、ブランディングに関するアドバイスや、広報のサポートを受けたことで、吉村さんは出店に踏み出せたといいます。
吉村さんがどんなきっかけで菩薩咖喱をスタートし、プロジェクトにおいてどんな支援を受けて、どうスタートダッシュできたのか。吉村さんへのインタビューにビジネス視点でのポイントを交えながら、菩薩咖喱流のスモールビジネスの始め方を、前編・中編・後編の3本でお送りします。
後編では、経営の土台を固めた吉村さんがついに実店舗をオープンするまでのスタートダッシュをどうぞ。
カレーが大好きな店主・吉村萌々さんが、イベントでの出店をきっかけに始めた菩薩咖喱。初出店から半年程度で間借り店舗をオープンし、その後すぐに実店舗のオープンに至りました。
実店舗オープン前は、借入も事業計画書の作成も経験がなかった吉村さん。経営を学ぶ必要に駆られたときに知ったのが、株式会社中川政七商店が手がける奈良のスモールビジネス支援プロジェクト「N.PARK PROJECT」でした。
このプロジェクトで、中期経営計画の作成や管理会計、ブランディングに関するアドバイスや、広報のサポートを受けたことで、吉村さんは出店に踏み出せたといいます。
吉村さんがどんなきっかけで菩薩咖喱をスタートし、プロジェクトにおいてどんな支援を受けて、どうスタートダッシュできたのか。吉村さんへのインタビューにビジネス視点でのポイントを交えながら、菩薩咖喱流のスモールビジネスの始め方を、前編・中編・後編の3本でお送りします。
後編では、経営の土台を固めた吉村さんがついに実店舗をオープンするまでのスタートダッシュをどうぞ。
菩薩咖喱(ぼさつかりー)
奈良市の「きたまちエリア」にあるカレー専門店。「奈良をカレーの総本山にする!」というコンセプトを掲げ、豆のカレーを基調とする定食スタイルの「ダルバート」を提供している。2018年からイベント出店をスタートし、2019年に間借り店舗、2020年に実店舗をオープン。実店舗オープン前から、中川政七商店の「N.PARK PROJECT」によるフォローを受ける。
オープン直前期、業者の紹介や広報サポートに支えられた
2019年秋にN.PARK PROJECTの一環として、中川政七による経営面のアドバイスを受けた吉村さん。菩薩咖喱の向かうべき道をクリアにし、2020年2月のオープンに向けて具体的な準備に奔走します。
NAKAGAWA’s eye
詳しく書かれていませんが、この時点で5〜7年後に3店舗目をオープンするところまでの大まかな中期経営計画を策定しました。直近の月次の収益・損益分岐点も大切ですが、大きな未来の手前に「今」があります。大きな未来を言葉で描きつつ(ビジョン)、数字でも描くことが重要です。
なので、2店舗目3店舗目の店舗名やコンセプトも検討した上で1店舗目は「菩薩咖喱」のままでいきましょう、と決まりました。
なので、2店舗目3店舗目の店舗名やコンセプトも検討した上で1店舗目は「菩薩咖喱」のままでいきましょう、と決まりました。
「特にオープン直前期から、N.PARK PROJECTで広報をされている佐藤さんが頻繁に来てくださいました。プレスリリースに出す写真を撮ったり、オープンの際には内覧会のようなイベントにしてメディアの方をご招待しようと一緒に企画したり、具体的なアドバイスをいただけて心強かったです」
オープン前に作成していた5年計画が、採用を後押しした
2020年2月、ついにオープンした菩薩咖喱。これまで着実にファンを増やしてきたことに加えて新たなお客さんがお店に集まった結果、吉村さんは想像をはるかに超えた忙しさに見舞われます。
「オープンしてから最初の1ヶ月は特に忙しくて、私1人ではお店を回せなくなりました。無理にお願いして母に手伝ってもらう日もあったので、オープンして2ヶ月経ったころにアルバイトスタッフさんの採用を決めたんです」
1人でのオペレーションにこだわってお店の回転率を下げるのか、「採用」に踏み出して多くのお客様をお迎えするのか。スムーズに後者を選べた理由は、オープン前に作成していた5年計画にありました。
「中川さんにアドバイスをいただいて、オープン前からお店の5年計画を作成し、そのなかで売り上げがこのラインに到達したらスタッフさんを採用しよう、と決めていました。そのタイミングはオープンから3年後を見据えていたのですが、ありがたいことにオープンしてまもなくそのラインに到達して。中川さんにもご相談し、早々に採用を始めることにしたんです」
「オープンしてから最初の1ヶ月は特に忙しくて、私1人ではお店を回せなくなりました。無理にお願いして母に手伝ってもらう日もあったので、オープンして2ヶ月経ったころにアルバイトスタッフさんの採用を決めたんです」
1人でのオペレーションにこだわってお店の回転率を下げるのか、「採用」に踏み出して多くのお客様をお迎えするのか。スムーズに後者を選べた理由は、オープン前に作成していた5年計画にありました。
「中川さんにアドバイスをいただいて、オープン前からお店の5年計画を作成し、そのなかで売り上げがこのラインに到達したらスタッフさんを採用しよう、と決めていました。そのタイミングはオープンから3年後を見据えていたのですが、ありがたいことにオープンしてまもなくそのラインに到達して。中川さんにもご相談し、早々に採用を始めることにしたんです」
テイクアウトメニューのInstagram投稿
しかしスタッフが入ってようやく落ち着いた営業が可能になってきた矢先、新型コロナウイルス感染症が拡大。緊急事態宣言の期間中は、菩薩咖喱の営業をテイクアウトに切り替えます。その影響は今でも残っているそうです。
「今もお客さんが完全に戻っているわけではなので、もうちょっと頑張りたい気持ちはありますね。でも本当に忙しかったオープン直後はずっと厨房にいたので、最近ようやく落ち着いて店内を見られるようになりました。今は焦らずに、来てくださるお客様を大切にしたいです」
「今もお客さんが完全に戻っているわけではなので、もうちょっと頑張りたい気持ちはありますね。でも本当に忙しかったオープン直後はずっと厨房にいたので、最近ようやく落ち着いて店内を見られるようになりました。今は焦らずに、来てくださるお客様を大切にしたいです」
誰もが日常で食べられるカレーで、奈良を「カレーの総本山」に
Instagramをきっかけに訪れる学生から、新聞によって店舗のオープンを知った中高年まで、菩薩咖喱には幅広い客層が訪れます。さらに、カレーのためなら移動を厭わない遠方のカレーファンから、常連のご近所さんまで、カレーへの思い入れもさまざま。間借りから実店舗に移行したことで、新たなファンも増えたそうです。
「誰もが気軽に立ち寄れるカレー屋さん」。オープンして半年でそんな評判が広まっている理由のひとつは、菩薩咖喱のメインメニュー「ダルバート」にあるのかもしれません。吉村さんがイベント初出店のときからずっと作ってきたのが、ダルバートでした。
「誰もが気軽に立ち寄れるカレー屋さん」。オープンして半年でそんな評判が広まっている理由のひとつは、菩薩咖喱のメインメニュー「ダルバート」にあるのかもしれません。吉村さんがイベント初出店のときからずっと作ってきたのが、ダルバートでした。
「ダルバートはネパールの代表的な家庭料理で、豆のカレーとご飯に、野菜のおかずや漬物などがセットになったもの。スパイスの主張がそこまで前面に出ているわけではありません。これが私にとって、いちばん自分に合っていると思えるカレーなんです。
ダルバートと出合うまで、私は他のカレーを食べるときに『こういう文化が育てたカレーを食べます』とスイッチを入れ、その文化にモードを切り替えていました。でもダルバートを初めて食べたとき、自然体のままおいしいと思えたことが衝撃的で。私にとって初めての感覚だったんです。
豆の素朴さと玉ねぎの旨味をじっくり味わえて、日本の定食を食べるのと同じように、肩肘を張らずにおいしいと思える。初めて食べたときから『お店で出すならこれにしよう』と決めて、菩薩咖喱ではずっとダルバートをお出ししています」
ダルバートと出合うまで、私は他のカレーを食べるときに『こういう文化が育てたカレーを食べます』とスイッチを入れ、その文化にモードを切り替えていました。でもダルバートを初めて食べたとき、自然体のままおいしいと思えたことが衝撃的で。私にとって初めての感覚だったんです。
豆の素朴さと玉ねぎの旨味をじっくり味わえて、日本の定食を食べるのと同じように、肩肘を張らずにおいしいと思える。初めて食べたときから『お店で出すならこれにしよう』と決めて、菩薩咖喱ではずっとダルバートをお出ししています」
NAKAGAWA’s eye
私達は、カレーそのものについては一切口出ししません。(値段は相談します)
スモールビジネスには前輪と後輪があります。
前輪とは店主の志であり商品そのもののこと。ここは基本お任せです。やりたいことをやるために独立しているわけですから、こういうカレーにしたら流行りますよ、みたいな事は言いません。
お手伝いするのは、後輪部分。一言で言うなら経営の部分です。
経営にはビジョンから商品政策やコミュニケーション設計までたくさんの要素があります。しかしこれからお店を始めようとしている多くの方々は、前輪はしっかりしていても、後輪がおざなりになることがほとんどです。しかし両輪が噛み合って初めてお店は成立します。
N.PARK PROJECTの存在意義はそこにあると思っています。
スモールビジネスには前輪と後輪があります。
前輪とは店主の志であり商品そのもののこと。ここは基本お任せです。やりたいことをやるために独立しているわけですから、こういうカレーにしたら流行りますよ、みたいな事は言いません。
お手伝いするのは、後輪部分。一言で言うなら経営の部分です。
経営にはビジョンから商品政策やコミュニケーション設計までたくさんの要素があります。しかしこれからお店を始めようとしている多くの方々は、前輪はしっかりしていても、後輪がおざなりになることがほとんどです。しかし両輪が噛み合って初めてお店は成立します。
N.PARK PROJECTの存在意義はそこにあると思っています。
最近では旬の野菜を取り入れたり、レベルアップのために同じメニューを作り続けたりと、常に試行錯誤を続けているようです。吉村さんの目指す「カレー作り」とは、どのようなイメージなのでしょうか。
「私のつくるカレーは、カレーそのものが主導権を握っています。だから私は、食材が表現させてくれたカレーをできるだけいい形にするお手伝いをしたいです。食材ひとつひとつを『人気だから』『なんとなく』で使うのではなく、それぞれの食材がきちんと『生きる』ようにしたいと考えています」
吉村さんは、カレーを通して自分が表現したいことを表現しているのではなく、カレーに「表現させてもらっている」のだと語ります。
「かつては『自分が』表現するものだと思っていたので、表現したいものが見つからなくて焦っていました。でも表現ってそういうことじゃないんだな、とカレーに教えてもらったんです。理想のカレー像があって、カレーを食べてくださるお客様がいて、私はできるだけいい形で届ける役割なんだなって。カレーを通して、物事の考え方を日々勉強させてもらっています」
「私のつくるカレーは、カレーそのものが主導権を握っています。だから私は、食材が表現させてくれたカレーをできるだけいい形にするお手伝いをしたいです。食材ひとつひとつを『人気だから』『なんとなく』で使うのではなく、それぞれの食材がきちんと『生きる』ようにしたいと考えています」
吉村さんは、カレーを通して自分が表現したいことを表現しているのではなく、カレーに「表現させてもらっている」のだと語ります。
「かつては『自分が』表現するものだと思っていたので、表現したいものが見つからなくて焦っていました。でも表現ってそういうことじゃないんだな、とカレーに教えてもらったんです。理想のカレー像があって、カレーを食べてくださるお客様がいて、私はできるだけいい形で届ける役割なんだなって。カレーを通して、物事の考え方を日々勉強させてもらっています」
今後は、菩薩咖喱の掲げるミッション「奈良をカレーの総本山にする!」を目指すだけでなく、海外のカレーを研究しに行ったりカレーを学術的にひもといたりして、カレーへの造詣を深めたいと考えているそうです。
カレーとの関わり方を模索しながら、ダルバートを軸にファンを増やしていく菩薩咖喱。知れば知るほど登りたくなるカレーの山を、吉村さんはこれからもしなやかに登り続けていくことでしょう。
カレーとの関わり方を模索しながら、ダルバートを軸にファンを増やしていく菩薩咖喱。知れば知るほど登りたくなるカレーの山を、吉村さんはこれからもしなやかに登り続けていくことでしょう。
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