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今西酒造#03

醸造哲学「清く、正しい、酒造り」を徹底。今西酒造が新たにチャレンジする、これからの酒造り

RELEASE
2021.06.04
お酒の神様が宿る三輪山をご神体とする大神神社(おおみわじんじゃ)や、杜氏の神様が祀られる活日(いくひ)神社。2つの神社が鎮座する奈良県桜井市・三輪の地は、日本書紀に“酒造り発祥の地”としてつづられる始まりの場所です。

そんな三輪で唯一今も酒造りに取り組む酒蔵、今西酒造株式会社。「三諸杉(みむろすぎ)」「みむろ杉」を代表銘柄とするこの酒蔵の蔵主は、十四代目の今西将之さんです。

今西さんが28歳で蔵を継いでからもうすぐ10年。事業承継後、日本酒にまつわる各種のコンクールで賞を総なめにするなど、今西酒造は日本酒界でも一躍注目を浴びる存在となりました。

しかし継いだときから順調だったのかと言えば「蔵に戻ってきたときは『人生終わった』と思いました(笑)」と今西さん。当時の今西酒造は債務超過もいいところ、経営状況としては非常に厳しい状態にありました。

たった数年で蔵の経営を立て直し、酒造りに関して挑戦に次ぐ挑戦を重ねてきた今西さん。これまでの挑戦と、これからの挑戦を伺いました。

前中後編でお届けするなかの、本記事は後編です。
今西酒造
1660年(万治3年)に創業。酒の神が鎮まる、酒造り発祥の地とされる奈良・三輪の地で現存する唯一の酒蔵。360年以上造られる代表銘柄の「三諸杉(みむろすぎ)」は、三輪山が古来より「三諸山」と呼ばれていること、 三輪山の「杉」には神様が宿るとされていることから名付けられた。

醸造哲学「清く、正しい、酒造り」

今や需要に対して供給が追いつかないほど大人気となった今西酒造の日本酒。どうしてそんなに美味しいお酒が造れるのかと、その秘訣を聞いてみると今西酒造の醸造哲学を教えてくれました。

「僕らの醸造哲学は『清く、正しい、酒造り』。うちの酒造りはめちゃくちゃ丁寧なんです。

清くっていうのは三輪の清らかさ。一点の曇りもない清らかさを、過去でも現在でも表現してきたし、今後も変わることなく表現していくという意志ですね。

正しいっていうのは、僕たちの酒造りの判断基準。僕らは酒造りにおいて、正しいか正しくないかで各工程の在り方を考えています。美味しいか美味しくないかは、お客様が決めることなのであえてそこには基準をおいていなくて」

例えばそれは、洗米ひとつをとっても徹底されています。洗米はお米の表面についた糠を落とすことが目的に行われる工程。多くの蔵では効率的に洗えるよう100キロ単位などで洗米するそうですが、今西酒造では何と、全量を10キロずつ小分けにして洗うのだそう。

「今年は回数にしたら1万2,000回洗ってますね。尋常じゃないほど洗います(笑)。でも洗米が完璧に糠を落とすことが目的なら、丁寧に洗って落とすことが正しい在り方ですよね。だから、僕らは効率はまず無視なんです。全てにおいて非効率でありながらも、正しいことしかやりません」
洗米の様子(画像提供:今西酒造)
この「正しいお酒造り」をやり抜くためには、どうしても仕込み規模が他の蔵より小さくなるため、今西酒造に並ぶ設備はいずれも小仕込みに最適なものばかり。

また蔵人も製造量の規模感に比べ、多めの人数を揃えます。「うちの規模感だったらだいたい7、8人ぐらいが業界平均。でも、うちでは18人と、2.5倍の人が働いています。現実的に手間暇をかけられるような体制をつくって、理想を現実にしてるんです」。
こうしてお酒造りの素人から、勉強と努力を重ねてやっと理想の体制・理想のお酒造りができるようになったのは、今西さん曰く継いでから8年後の去年だったそう。今後は「縦軸から円錐へのチャレンジをしたい」と教えてくれました。
「去年までは縦の軸を伸ばした5年間でした。縦軸っていうのは、超無名の田舎の蔵から全国区の蔵になる、いいブランドを育てるというイメージですね。『清く、正しい、酒造り』をするための大きな設備投資を自己資金でできるような経営規模感をつくって、みんなが働く労務環境を改善する。社員が定年まで、自分の人生も豊かにしながらお酒造りに向き合えるような環境を整えたいなと思ってました。そのためにまずは生産量を上げたかった。

去年それが実現できて、やっと素地が整いました。で、ここからの5年間が本来やりたかったことなんですよね。これ以上の生産量はもう追わず、次は円錐にしていく5年間のイメージです。円錐にするために、三輪の地をより深掘りするようなお酒造りがしたいなと」

「三輪を深堀りする」これからの5年間

「三輪を深堀りする」とは一体どんなものなのか。今西さんに聞くと、そこには「米」「杉」「菩提酛」の3つのキーワードがあるようです。この3つをお酒造りで表現することこそ、次なるチャレンジなのだとか。

まずはお米。今西酒造ではもともと契約農家からお米を買っていましたが、それに加えて去年からは自社で田を持ち、蔵人たちが米づくりを始めました。

これは「お酒造りの課題感をお米づくりにフィードバックしきれていなかったから」だそう。「お米づくりに対する自分たちの情報や技術力不足で、農家さんと同言語・同情報量で話ができていない」と感じた今西さん。みむろ杉にとってより良いお米を育てるために、まずは自分たちがお米を知る必要があると考え、自ら田を持つ発想に至りました。

「自分たちでお米を育てて、そのお米でお酒造りをする。それで振り替えりをしていけば、みむろ杉にとって良いお米づくりの気づきを全契約農家さんにフィードバックができます。

あとは、この地に休耕田が増えてきているので、そこも何とかしたいなと。お酒造りを通じて休耕田を減らしていき、日本の原風景を残していくのも使命だなと思っています」
続いての「杉」もまた、三輪の地ならではのキーワード。杉に神様が宿るとされている三輪山のある地でお酒造りをする者として、杉への敬意をこめ、杉を表現するお酒造りをしようと決めたそうです。

ポイントになるのは吉野杉。その名の通り今は奈良県の吉野山に生える吉野杉ですが、実は三輪山の杉が移植されて育ったもので、明治時代に書かれた技術書にもそう記されているのです。

また三輪山のある桜井市は材木商の街。今西さんの普段の飲み仲間にも材木を仕事とする方が多くいるといいます。

「だからうちの蔵の強みは、吉野杉の中でも大トロ部分を目利きできる人間たちが仲間内にたくさんいて、仕入れられるルートを持っていることです。ということは、全国で一番、吉野杉の最高の材を手に入れられる環境なわけです。

三輪と関係のある吉野杉を取り入れ、地元の林業家や材木商と組むことで地域の事業と共に生きていく。そういうことが杉の表現だと考えています。

具体的なアウトプットだと吉野杉の桶とか樽を使うことや、全部を吉野杉でつくったパッケージをつくること。緩衝材も吉野杉で、ラベルも吉野杉にしたいなと」
NAKAGAWA’s eye
酒造りも工芸も1社だけで完結するものではありません。サプライチェーン全体の力を上げていって初めて良いものづくりが可能になるのです。
経済的なことだけではなく思想としても繋がり、共感し良いパートナーシップが育まれていきます。
最後の「菩提酛」は酒造りの方法。200年代に三輪の地で生まれてから1200年ほど、酒といえばどぶろくしか存在しませんでしたが、室町時代(1400年代)に奈良市のお寺・正暦寺で菩提酛が誕生し、清酒や熱処理の技術がうまれたことにより、お酒の安定性や流通がいっきに増しました。この正暦寺には今も「清酒発祥の地」と書かれた石碑がたっています。

酒造り発祥の地、そして酒の神が鎮まる地とされる三輪と、清酒発祥の地であり菩提酛発祥の地とされる奈良市・正暦寺。その2つの歴史をお酒造りで表現したいと今西さんは話します。

「お酒の神が宿る三輪の水や歴史文化と、奈良県が創醸した透明なお酒造りの原点である菩提酛造りの掛け算ができる蔵って、うちだけなわけです。奈良県の蔵が、奈良が編み出した技術に敬意を表し、表現する。それってすごく面白いですよね。

でもただ昔のお酒を造るんじゃなくて、それを現代の技術で復興させて、現代の食生活に合う味わいの、清く正しいお酒を表現したいんです。

この地に根付くもの、生み出される風土・文化・歴史・醸造哲学の掛け算がないと本当の地酒って表現できないと思ってて。これまではお米をどのくらい削ったとかだけが重要視されてましたけど、そうじゃない、日本酒の新しい価値創造みたいなものですね」
3つのキーワードから生まれた「みむろ杉 木桶菩提酛」は2021年6月に販売開始。ちなみに、このタイミングと同時期に中川政七商店と今西酒造でつくった酒袋も発売されます。
「中川さん(※中川政七商店 代表取締役会長 中川政七)とは以前から親しくさせてもらってて。中川さんに、酒袋をつくってもらえないかと頼んでみたら『それはいいね』と。

こだわったのは、酒感をあまり出さないデザインですね。マニアのための袋にしたくなかったんです。もっとお酒ってカジュアルな日常であってほしいから。

4合瓶2本や一升瓶2本が入るサイズにしてて、今西酒造と中川政七商店さんの奈良本店、うちの特約店さんで買えるようにするつもりです。A4サイズやから普段使いもOKで、ファイルも入りますよ(笑)」
生地に使われたのは、酒を絞る際に実際に使われている袋と同じ生地

三輪の地も、日本酒業界も盛り上げる

この他にも、三輪の地をガイド付きでまわる「酒蔵ツーリズム」や今西さんも加盟する「一般社団法人J.S.P(ジャパン・サケ・ショウチュウ・プラットフォーム)」など、今西酒造でのお酒造りだけでなく、様々な場に活動の幅を広げる今西さん。

酒蔵ツーリズムは三輪の地の活性化に貢献するため、またJ.S.Pの活動は全国の酒蔵が知見やナレッジを共有しあう勉強会や、酒文化の発信、各蔵のブランディングを目的として起ち上がりました。縁あって中川がコンサルティングをしたJ.S.PのECサイトも、もうすぐオープンします。
酒蔵ツーリズムのパンフレット
NAKAGAWA’s eye
ご縁あってJ.S.PさんのECサイトのお手伝いをさせていただきました。
J.S.Pは国酒(日本酒と焼酎)の未来のための業界団体で、ものづくりはもちろんそれを支える経営やブランディングについても、全国の酒蔵さんを巻き込んだ啓蒙活動をされています。コロナの影響もありお酒の流通は変わっていきます。変化に対応するものだけが未来を生きることが出来ます。
「蔵に戻ってきたときは『人生終わった』と思いました」と笑う今西さんですが、そう笑うために考え、悩み、決断するには相当な精神力が必要だったのではないかと、想像しきれないほどの大変さを想います。

情熱的でまっすぐさを持ちながら、穏やかで柔軟。変化を厭わずチャレンジする、潔さや芯の強さもある。今西酒造が造り出すお酒は、まるで今西さんの人柄のようでした。

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INFO

今西酒造株式会社

本店:奈良県桜井市大字三輪510番地
定休日:日曜日(12月除く)
公式サイト:HP

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文:谷尻純子 写真:奥山晴日

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