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プロジェクト粟#03

「プロジェクト粟」流、地域活性とは。七つの風で地域コミュニティの存続、再構築にも注力

RELEASE
2021.05.06
「これは大和まなで、こっちは春日早生(かすがわせ)。どっちも葉物野菜で、炒め物にするとめっちゃ美味しいんですよ」

聞きなれない名の野菜をエネルギッシュな笑顔で収穫しながら、一つひとつの野菜について愛おしそうに説明するのは、大和伝統野菜の第一人者・三浦雅之さん。懐かしさを帯びた景色が広がる、奈良市郊外の精華地区をメインフィールドとし、奈良で古くから育てられてきた野菜を調査・研究しながら、大和伝統野菜を提供するレストラン「清澄の里 粟」「粟 ならまち店」も営んでいます。

伝統野菜とはその土地で古くからつくられてきた、土地の気候風土にあった野菜のこと。その土地独自のブランド野菜といえば京野菜や加賀野菜が全国的にも有名ですが、実は奈良にも、大々的にブランド化はしていないものの、地域の農家さんによって小さく受け継がれてきた品種がいくつもあります。

元々は福祉関係の仕事に就いていた三浦さんですが、予防医療・予防福祉の道を探るなかで大和伝統野菜に魅せられ、今では「プロジェクト粟」と称して大和伝統野菜を軸とした地域活性にも取り組みます。

大学の農学部で講師として登壇したり、伝統野菜に関するセミナーの声が全国からかかったりとオファーの絶えない三浦さんですが、実は調査を始めた頃、奈良県にはほとんど大和野菜の登録はなかったのだとか。

なぜ三浦さんは大和伝統野菜を軸とした事業を行うのか。そして、今後目指すものは? 前中後編でお届けするなかの、本記事は後編です。

<注>
大和野菜・・・・奈良県にブランド野菜として認定されている野菜
大和伝統野菜・・奈良県で古くから種が受け継がれ、育てられてきた野菜
プロジェクト粟
奈良の地域資源である大和伝統野菜を活用した事業を通じ、コミュニティ機能の再構築と地域創造への貢献を目指し設立。農業の六次産業化に取り組む「株式会社粟」、伝統野菜の調査研究と文化継承活動を行う「NPO法人清澄の村」、地元の集落営農組織である「五ヶ谷営農協議会」の3事業者により取り組みを行う。

大和伝統野菜のレストラン「清澄の里 粟」開業

予防医療・予防福祉の道を探していた三浦夫妻。大和伝統野菜との出合いから、奈良県の精華地区で大和伝統野菜が食べられるレストランの開店に至ります。

ちなみに精華地区を拠点とすることになったのは、三浦さんが研究所で働いていた時の同僚との縁からだそう。

「働いている時は全く知らなかったんですけど、大和伝統野菜の調査をしている時に、先に辞めはった先輩と久しぶりに再会しまして。『三浦くん久しぶりな、最近どうしてんの?』って言われたので、『いや、実はすごい農業に興味があって、こんなことを構想してるです』って話をしてたら、先輩の実家が実は元々農家だと判明したんです。

でも先輩もそのお父さまも農業はもうされてなくて。畑が荒れ地になっちゃってて、『もし良かったら借りてくれへん?』っていう話になって。

その時、まだ僕は農地を全然探してなかったんですよ。でもそんな話が嘘みたいにあって。『見に行かせてください』って伝えて、その日のうちに連れて来られたのがこの土地です(笑)」
そんな縁から草だらけになっていた土地の開墾に臨んだ三浦夫妻。当初は、その時ヒッピー風だったという三浦さんの外見も手伝ってか、周りの農家さんから不審に思われていたと三浦さんは愉快そうに笑います。

しかし少しずつコミュニケーションをとることで、自然と周りも協力的になってくれたのだとか。2人だけでは非現実的だったレストランの開店が、様々なご縁に助けられて叶ったのは2002年。三浦さんが29歳の時でした。

お店は「清澄の里 粟」と名付けることに。「清澄」は、かつてお店のある精華地区のあたりをこう呼んでいたことから。また「粟」には、三浦さんの想いを込めたといいます。

「伝統野菜にフォーカスして、それを地域づくりに繋げたいというイメージが明確にできていたので、何かこう、種火が広がっていくようなものを、と思っていたんです。なくなりつつある伝統野菜から残り火をイメージして、また再び燃やしていくぞと。

漢字が伝わる以前に、日本では大和言葉というものが使われていました。その大和言葉の中では、50音にそれぞれ意味があるわけですね。“あ”には全ての始まりという意味があり、“わ”には調和する、仲良くするっていう意味がある。なので「あわ」は、全てが始まって調和するというイメージです。
それともう一つ。旧暦では『一粒万倍日』という日があり、これは事始めの吉日なんです。

『一粒が万倍』の一粒って、実は粟からきてるんです。というのは、お米は種を一粒まくと増えてだいたい2000粒くらい、たくさんできるお米でも4000粒くらいです。対して、粟は一粒まくと7000粒から1万粒くらいに増えるんですよ。一番、豊穣を象徴する作物なんです。

種火をまさに体現するような作物でもあるので、じゃあ粟にしようと」
NAKAGAWA’s eye
「名は体を現す」
ネーミングは本当に大切です。
三浦さんとの付き合いは長いですが、「あ」と「わ」の話は初めて知りました。
こうしてオープンした「清澄の里 粟」は、三浦夫妻の想像を超えた反響があったそう。オープン直後は夫妻の知人を中心に来店があり1か月半ほどにぎわったものの、実は三浦夫妻、「オープン景気はこれくらいまでかな」と最初は思っていたといいます。

しかしそのタイミングで、伝統野菜の調査からレストラン開店に至るまでの三浦夫妻を追ったドキュメンタリー番組が放送されたことにより、来店者数は落ちることなく、反対に激増します。一時はお店前の農道に長蛇の列ができたのだとか。

「当時は農家レストランという言葉はまだなく、六次産業も専門家の方々だけが知っている言葉で。特に大和野菜という言葉は全くメディアに出ていない状況だったので、ちょっと風変わりなレストランとしてメディアが注目してくれたんです。完全に想定外でキャパをオーバーしていたので、どうやって乗り切ったか全然覚えてないですね。

僕たち実は、建物を建てた時に貯金がほぼ底をついちゃってたんですよ。お店自体はお金を借りることなく自己資金だけで建てられたんですけど。あ、でもちなみに、その7割は妻の貯金です(笑)。

だから広告を打つお金も全然なかったので、お客さんが来てくれなかったらその後どうなってたかわからないです。一度メディアに出演したおかげで、その後も次から次へと他のメディアが取り上げてくださいました」
また、お店への来店数が延びた要因として、三浦さんはインターネットの普及とモータリゼーションの進化もあったと振り返ります。

ひと昔前であれば、田舎にお店を開店してもたどり着ける人は少ないのが常套でしたが、携帯電話とカーナビゲーションが普及したことで、アクセスを助けたのだといいます。
NAKAGAWA’s eye
三浦さんのコメントにもあるように、情報インフラの整った今の時代は、地方の中小企業にとって良い時代と言えます。志を持ってきちんとやっていれば、それを見つけてきてくれるお客さんがいる。一昔前では考えられないことでした。
こうして順調に滑り出した「清澄の里 粟」。2012年にはミシュラン一つ星に選ばれ、その後は「粟 ならまち店」など2店舗目、3店舗目も開店していきました。いずれの店も奈良の伝統野菜や文化を伝える場として人気を呼び、「粟」の名は広く知られていくこととなります。
「自分たちで宣伝しなくても、あっという間に広がったというか。なので開店と同時にもうずっと軌道に乗ってるんです。それを自分で計画してたら、そりゃすごいでしょうって言えるんですけど、計画できてないことのほうが大半です(笑)」

プロジェクト粟を3つの事業の集合体にした理由

「清澄の里 粟」など、大和伝統野菜が食べられるレストランを軌道に乗せた三浦さん。最初は個人事業主としてお店を運営していましたが、数年後には「プロジェクト粟」と称し、組織体にして活動をする方向へ経営の判断をします。

コミュニティ機能の再構築と地域創造への貢献を目指して立ち上がった「プロジェクト粟」。レストランの運営など、農業の六次産業化に取り組む「株式会社粟」と、伝統野菜の調査研究と文化継承活動を行う「NPO法人清澄の村」、そして地元の集落営農組織である「五ヶ谷営農協議会」の3事業者が集います。

三浦さんはどの組織にも立場を変えて関わりますが、わざわざ3つの組織にしたのには、「その組織の人が、それぞれの仕事に集中できるように」との意図からだそう。

「昔、NPO法の調査をしている時に知ったのですが、例えばNPO法人の運営は補助金頼みのところが多くて、補助金が取れへんと無理やり勧誘して会員数を伸ばすところも多いんです。理念とかが全くないんですよ。そういうことをするから、結果的に組織がうまくいかない現実をたくさん見させてもらったんですね。

だから、組織ごとに役割を分けようと思って。全部マネジメントが異なるので、自分が事業をする時はそれを一つの組織でやるんじゃなくて、バラバラに分けるってずっと決めてたんです。

プロジェクト粟では利益を追求する株式会社と、公益の活動するためのNPO法人、それぞれの農家ができる範囲で野菜を生産する組合の営農協議会といった風に、完全に組織を分けました」
NAKAGAWA’s eye
どういう組織設計にするかはまさに経営者の意志と価値観が現れるところ。
正解のない領域です。
「それぞれの人がそれぞれの仕事に集中できるように」三浦さんのお人柄・価値観が滲み出ています。
プロジェクト粟のNPO法人では、在来ヤギの保存活動も行う
現在、三浦さんはこの他にも、大学の農学部で非常勤講師として教壇に立ったり、農業や文化継承に関する様々なイベントにスピーカーとして出演したりと、活動の幅を広げています。

大和伝統野菜から発見した「七つの風」のキーワード

「清澄の里 粟」が出来て、2021年で19年。三浦さんは大和伝統野菜を通じた取り組みの中で「七つの風」を知ったと話します。

「奈良には七つの風があるって、講演ではいつもお話ししているんですよ。七を冠して、地域の宝物を見つけるポイントにしましょうというお話をするんです。

順番でお話すると、最初に土地そのものが持っている性質という意味で、気候風土の『風土』が挙げられます。これがベースになって人間は生きていくわけで。

そこで営まれる農業や漁業は、二つ目の『風味』になる。そして、その風土の中で風味を追求していくことで生まれるのが、英語のランドスケープにあたる景観ですよね。つまり『風景』です。

四つ目は『風習』。日本って四季がある国で、移りゆく自然のなかで、調和して生きていくための知恵があるわけですね。自然と仲良く健康に生きていくための知恵です。

その次の風が『風物』です。昔は自然のものを活用しながら道具や物をつくっていました。俗にいう生活工芸です。中川政七商店さんもこれにあたりますよね。

その次は『風儀』、これは生活文化のことですね。調べてみると、実は日本人って、遊ぶことと学ぶこと、働くことが渾然一体としている。他国に比べて周りと調和しながら朗らかに生きてる民族だということを、過去に海外のいろんな方が実感されてる記録も残っているんですよ。そんな日本人的な生活文化が風儀です。

最後に、その六つの風のなかで培われる価値感とか、心持ちということで『風情』です。

この七つの風を切り口に、最近は奈良県にどんなコンテンツが残っているのかに興味を持ち、『はじまりの奈良』というクローズドなフォーラムを立ち上げました。これまでにご縁のあった方々と情報を共有したり、講演を聞いたりしています」

大和伝統野菜との関わりを通じ、「七つの風」がコミュニティを紡ぐさらなるキーワードになると考えた三浦さん。地域がこの七つを失うと、その地域のアイデンティティも、ひいては国のアイデンティティもなくなると危惧しています。

逆に考えるならば「地域で暮らす住民それぞれがこの七つの風を理解することこそ、地域のコミュニティを存続させ、また再構築させることにも繋がる」と三浦さん。現在は新たに「七つの自給率」を上げることに、精力的に取り組みます。

「自給率と聞くとハテナだと思うんですが、例えば『風味』の自給率はわかりやすくて、食料自給率ですよね。そして『風習』があるところは助け合いの自給率とか、健康の自給率とか、そういったものが高いと思います。

七つの風の自給率を自分たちの手でどんどん上げていくことで、結果的に豊かさと幸せの自給率が上がるんじゃないかなと思ってるんです。それは、七つ目の『風情』にリンクするところなんですけど。

今は完全にいろんなものがサービス化してしまって、生きることを皆さん、全てお金を払ってサービスで賄ってますよね。でも東日本大震災やコロナが起きて、世の中に不安を感じている人も多くなってきた。失ってしまっているコモンを、自分の手でもう1回握りしめたい欲求が出ている人が多いんじゃないかなと。

だからこのタイミングで自給率を上げて七つのコミュニティが紡がれるのが、一番のゴールだと思っています。失っていたコモンが再構築されていくことで、みんな安心して仕事に取り組めるし、助け合える」
これまでは大和伝統野菜という「風味」の分野に特化して活動を続けてきた三浦さんですが、今後はさらにフィールドを広げ、七つの自給率を上げる道を探っていきたいと新たな大志を抱きます。

最後に、「当初9品目しかなかった奈良の伝統野菜は、いま、何種類まで増えましたか?」と尋ねてみると、なんと、ブランド認定されていないものも含めると、発掘できた大和伝統野菜の数は53品目にもなったそう。まだまだ増えると、三浦さんは力強い声で教えてくれました。

ひっそりと眠る地域の魅力的な宝物を、大きな好奇心と使命感で再発見する三浦さんの営み。今後は大和伝統野菜を原点としながら、さらに活動の幅を拡張し、“よりよく、生きる”ヒントを探して私たちに教えてくれることでしょう。

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プロジェクト粟

公式サイト:HP / 清澄の里 粟 / 粟 ならまち店

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文:谷尻純子 写真:奥山晴日

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