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川東履物商店#03

もう一度、奈良を履物の産地として誇れる地に

RELEASE
2021.02.24
古くから履物の産地として栄えた奈良県。今もなお県内各地では、革靴や草履をはじめとした履物にまつわる商いが続いています。

2020年にヘップサンダルブランド「HEP」をデビューさせた、川東履物商店の川東宗時さんもまた、奈良の地で履物と深く関わりながら育った一人。父方の実家はヘップサンダルを手がけるメーカー、また母方のお祖父様も履物職人と、「まさに履物に育てられたようなものだ」と川東さんは語ります。

しかし一時は隆盛を極めた産地といえど、現在は衰退の一途をたどるばかり。150軒ほどあったメーカーの数は、現在15軒ほどにまで縮小しているそうです。

そのような状況でなぜ、川東さんは新たなチャレンジを仕掛けようと考えたのでしょうか。

前・中・後編の3編に渡り、その経緯と想いを伺いました。この記事では後編をお届けします。
川東履物商店
1952年の創業時より履物事業を営む川東商店の4代目・川東宗時さんが、ヘップサンダルをプロダクトの主軸に置き、個人事業主として立ち上げた事業。プロデュースするヘップサンダルブランド「HEP」は、「ニューヘップサンダル」をコンセプトに、古くから愛され続けてきたヘップサンダルが未来につながるよう、様々な角度からアップデートを試みる。

同業者の共感が得られず苦労

2018年の講座受講後、川東さんは講座で出会ったデザイナーの長砂さんと、ヘップサンダルをどのようにアップデートしていくか、改めて一から考えていきました。

ひたすら繰り返した打ち合わせでは、ビジョンを考えたり、ブランドのコンセプトを考えたり、協力工場と連携して何度も試作品をつくったり。

講座でたくさんヒントを得たとはいえ、課題は山積み。特に苦労したのは、同業者から軒並み事業の賛同を得られなかったことだったと、川東さんは苦笑いしながら当時を振り返ります。
「関係者からの風当たりは相当強かったですね。『絶対に売れるはずがない、上手くいくわけがない』って、かなり言われていました。

それはヘップサンダル自体が下火になっているのもありますし、これまで流通していた価格と、かけ離れた価格設定を想定してたのも理由です。今までは店頭のワゴンで2000円ほどで売られていたものを、僕は6000円から9000円くらいで届けたいと思っていて、それに対して絶対売れるはずがないって」

製造工場を選ぶ際も、提案するヘップサンダル事業に共感してもらえず、協力を申し込んでも断られることが何度もあったそう。

「うちは生産設備を兼ね備えていないファブレスなので、サンプル制作に付き合っていただく工場を探すことにも、めちゃくちゃ苦労しました。

奈良県の工場をリストアップして、各社に電話をかけていったんですけど、何社かは断られてしまいましたね。たくさんアタックした中、ダメもとでとトライしてくれたのが、今もお願いしている工場です」
NAKAGAWA’s eye
中川政七商店も同じく最初は協力メーカーを探すのに苦労しました。その状況を変えるには結果(=継続的にたくさん発注する)を出すしかありません。その先にはビジョンへの共感なども生まれてきますが、まずは結果です。
そうしてやっと見つけた工場からあがってきたサンプルは、しかし、初回はイメージしていたものと全く違ったクオリティに。川東さんたちは工場とのコミュニケーションの難しさにも頭を悩ませます。

「全ては、自分が期待されていないからこうなるのかもしれない」。そう落ち込むこともありましたが、「ヘップサンダルを履くライフスタイルを、改めて提案したい」という川東さんの強い気持ちは消えることなく、粘り強く、めげずに歩みを進めていきました。

「僕、いま事業のために初めて相当な額の借入れをしたんですよ。それで上手くいかなかったらどうしよう、みたいな。本当にもう、生きている心地がしなかったです(笑)。でも講座を経て、絶対最後までやり切ろうと。そんな想いがありました」
新ブランド「HEP」の世界観を可視化し、共有するために作ったコラージュ(写真提供:川東履物商店)

大日本市でブランドデビュー

ところで「ヘップサンダルをアップデート」というと、なんとなく全く新しいデザインをイメージするかもしれません。しかし川東さんが大事にしたのは、過去のデザインから“ヘップサンダルたらしめている要素”を抽出し、必要ないものを削ぎ落とすことでした。

まずは何百とあるヘップサンダルを全て並べ、フォルムや素材感、色など、“ヘップサンダルらしさ”の要素を分解。その中から今回はフォルムを踏襲すると決め、派手な装飾や色は削っていったのだといいます。
改良に改良を重ね、ついに待望の「HEP」が完成。

デザインは4型ありますが、玄関に置いたままでもインテリアに馴染むようにと、カラーには全てシンプルな黒を採用。ヘップサンダルの良さである「サッと履ける」ことをより体感してもらうには、下駄箱にしまわなくてもいいようなミニマルさが大切だと考えたことが、黒を選んだ理由です。

また、パッケージデザインにも川東さんと長砂さんによるギミックが。百貨店の包装紙をイメージしてつくられた箱の柄は、よく見るとHEPのロゴがモチーフになっています。

「1年間に人が買う靴の数ってたかが知れていて、洋服が好きな人でもせいぜい3足くらいじゃないですか。自分が生涯買う靴の数には限界があるから、他に買うための理由があればいいなと思って、ギフト需要としても選ばれやすいものにしたんです。だからパッケージは、そのまま人に贈りたくなるようなデザインにしたいと長砂さんに伝えました」
箱の色として選択した蘇芳色には、2つの理由があるそう。1つめは川東履物商店が立地する大和高田市の市章の色が蘇芳色だったこと。2つめは過去のヘップサンダルを調査した際に、多様なバリエーションの中でも一番人気が赤色だった、という事実が判明したからなのだといいます。
NAKAGAWA’s eye
色の話も「細かいことを」と思われるかもしれませんが、すごく大切なことです。ブランド名や色、形などすべてのジャッジに理由があるべきです。それらをブランドの組み立てと読んでいますが、その強度がブランドから感じられる世界観に繋がります。
さらに箱の形状もひと工夫し、上にものを重ねても使いやすいようにと引き出し式に。家に持ち帰った後も小物入れとして再利用できるよう、暮らしに寄り添うデザインを選びました。

そうして完成した商品は、2020年2月に中川政七商店が主催した合同展示会「大日本市」で満を持してデビューの日を迎えます。バイヤーを含む来場者からの反応は、川東さんの想像以上に大好評。

「売れないとせっかくつくっていただいた工場にも申し訳ないし、プレッシャーがすごくあったから、展示会できちんとお客さんの反応が返ってきた時は嬉しかったですね。

その場で注文をしてくださったバイヤーさんや、取材を決めていただいたメディアもありました。すごく大変だったけど、チャレンジして本当に良かったなと思いました」

奈良の履物業界を背負いたい

デビューからもうすぐ1年。今では人気セレクトショップに置かれていたり、旅館やハイブランドから別注の声がかかったりと、HEPという新星がサンダル市場で耳目を集め始めています。

しかし川東さんはその人気に驕ることなく、ユーザーの声を地道に拾い続ける努力も忘れません。「履いて生活がどう変わったか」を知りたいと、自ら利用者にアプローチして生の声を聞き続けているそうです。

「中川政七商店さんは日本の工芸を背負っていらっしゃいますけど、自分は奈良の履物業界くらいだったら何とか背負えるかもしれないと思って事業を始めました。

少しずつではありますが『履物の人』になれてきているので、もっと『サンダルといえば川東履物商店』と、思い浮かべてもらえるような存在になっていきたいですね」
HEPの製造では昔ながらの分業を採用していますが、一部資材の仕入れを除いて、川東さんはそのほとんどを奈良でつくることにこだわります。

中には、川東さん自らが手を動かす工程も。これは市場の縮小でつくり手が事業をたたみ、現在は担い手がいない工程があるからなのだといいます。

「分業の課題として、高齢化や人手不足の問題は尽きないです。例えば、ABCとものづくりの工程があるとして、Bの工場が引退してしまうと、AもCも共倒れしちゃうんです。

逆に言うと、Bの工程ができればAもCも存続する。だから、そのBの工程を僕がやっています。A工場、C工場を残すためには、もう自分で手を動かすしかないなと思って」
川東さんは「生意気を言いますが」と一言添えたうえで、「もっとたくさんの奈良の事業者さんを救いたい」とその意志を語ります。

同業者の誰もから「無理だ」と言われ続けた川東さんの挑戦。広い工場の中で一人、孤独や不安に押しつぶされそうになりながらも自身を奮い立たせたのは、履物への熱い想いと、つくり手へのリスペクトでした。

いつか、奈良が履物の産地としてもう一度盛り上がることを目指して。「履物に育てられた」川東さんは、次なる一歩を力強く踏み出そうとしていました。
NAKAGAWA’s eye
商売は相手のあるものなので、どれだけ考え抜いてもうまく行かないことは当然あります。そこで諦めてしまうのか、粘り強く続けていけるのかは、「覚悟」にかかっています。そしてその覚悟は自分で考え抜くことでしか養われません。

これからも自分を信じて進んでいってほしいと思います。HEPが多くの方々に愛されるブランドとなりますように!

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INFO

川東履物商店

奈良県大和高田市曙町15-33
HEP公式サイト:ホームページInstagramONLINE SHOP

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文/谷尻純子 写真/奥山晴日

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