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北条工務店#02

性能ではなく、家づくりへの想いと物語性でブランディング

DEVELOPMENT
2021.02.09
緑滴る木々に囲まれた、真っ白で凛としたたたずまいの建物。

近鉄富雄駅から8分ほど歩いた住宅街の中にあるこの建物は、奈良県で事業を営む株式会社北条工務店(以下、北条工務店)が2020年6月にオープンしたギャラリーです。

大きな窓からやわらかな陽の光が降り注ぐ開放的な室内に用意されているのは、カフェスペースやショップスペース。

そこは屋内なのに外にいるような、中と外の境界線があいまいになるほどに自然と建物が溶け込んだ空間です。

道路をはさんだ向かい側には、和モダンな雰囲気で重厚感のある1軒の平屋が。こちらは、同じく北条工務店の事務所です。

外観からして、世の中のいわゆる「工務店」とはかけ離れた印象を受ける北条工務店の仕掛け人は、4代目となる北条愼示(しんじ)さん、満李子(まりこ)さんご夫妻。

同社は現在、個人住宅や店舗の建築、リノベーションに加え、マルシェの運営や暮らしにまつわるスクールの開催、また先ほど紹介したカフェ・ギャラリーの運営なども手がけていますが、北条夫妻が経営に携わるまでは、何でもない、普通の、街の工務店だったそうです。

中川政七と公私ともに仲の良い北条夫妻。その事業再編・拡大には中川政七が与えた影響も大きかったといいます。二人はどのようにして今のスタイルを確立したのか—―。前・中・後編と、中川政七も交えた番外編の鼎談の、4本をお届けします。
株式会社北条工務店
創業昭和20年、奈良県を拠点に活動する工務店。「住まいの豊かさを深める」をコンセプトに、注文住宅の建築ほか、住宅リフォームやリノベーションなど、住まい全般に関連する設計・施工・管理を行う。2012年には別ブランドの「HJ」を立ち上げ、「暮らしの種をまく」をコンセプトとして、マルシェや暮らしにまつわるスクールなどのイベントも企画・運営。中川政七とは奈良の経営者仲間として公私ともに親しい間柄。

大事にする価値観をベースに、空間やビジュアルを整えていく

家業に入り、決して“いい”とは言えない経営状態を知った北条夫妻は、まず場を整えることから始めていきます。

「父があまり掃除が得意なタイプじゃなかったので、1日のうち20%くらいは『あの書類、どこに行った?』って探してる状況なんですよ。そういうのがすごく嫌で。

まずはきっちりと整理整頓をして、気持ちのいい場をつくろうと思いました」(愼示さん)

また「いいホテルに泊まったり、車を買ったりしたときには極上のサービスが受けられるのに、それらよりも高い費用を出して家を建てる工務店では、なぜそういったホスピタリティが重視されないのか」ということにギャップを感じていたそう。

自分たちが提供する場では、おもてなしを大切にしようと強い意志を持ちました。
「自分たちは老舗で、技術に信頼があることが一つの強みだったので、老舗と謳うからには場もそんな印象を受けるように整えなくてはいけないなって。

会社を良くしていくために何から始めたかといったら、本当に、掃き清めて打ち水をすることからです。お香を焚いて、お客さんに来ていただける空間をちゃんとつくろうって」(満李子さん)

北条工務店の存在を知ってもらうこと、話を聞きに来た方に信頼できる会社だと思ってもらうこと、契約後は想像以上のクオリティの提供で満足してもらうこと。北条夫妻は、この3つのハードルを超えていくことを目指したそうです。

名刺も北条家の家紋をモチーフにリニューアル。このように、自分たちが大事にする価値観をベースに空間やビジュアルを整えていきますが、明確な「ブランディング」の概念は中川政七を通じて知ったといいます。

中川政七と出会い、次世代経営者仲間として仲を深める

北条夫妻が実際に経営の参考にした本
北条夫妻が中川政七と出会ったのは、夫妻がまだ奈良と東京を行き来しながら家業に関わり始めていた2007年頃。きっかけは愼示さんが連載を担当していた奈良の情報誌の取材でした。

「僕が毎月、奈良のいい点を紹介する連載ページを持っていたんです。それで、何かいい奈良の品はないかと探していたら中川政七商店さんのホームページに行き着いて。

そこで販売されていた『花ふきん』を掲載させてもらえないかとご連絡したのが、一番最初ですね」(愼示さん)
取材を通じて出会った北条夫妻と中川政七。当時の中川政七商店もまた、改革を進めるまっただ中でした。北条夫妻と中川政七は奈良の次世代経営者仲間として、時々食事に行っては仕事の話をしたそうです。

「この時の中川政七商店さんは今とまた違った成長感があって。

以前の事務所にもよく行かせてもらってたんですけど、失礼な言い方になりますが、そんなにいい環境にあるわけじゃなかった。最初、事務所の入口がわからなくて非常口からカンカンカンって階段を上って行って(笑)。でも中に入ると社員はたくさんいらっしゃって、皆さん輝いた顔で働いておられました。

決して華やかとは言えない当時の会社で、表参道ヒルズにお店があるというギャップには勇気をもらいましたね」(満李子さん)

「あの当時、中川さんはまだ常務でした。会社の規模は違えど、父の時代からいる古株の社員の気持ちと、これから自分が変えていきたいことを、どう着地をさせるのかという葛藤が共通しているなと感じてて。

それに関して細かいお話をお聞きしたわけではないんですけど、横から見ていて、大事な場面では自分の意思をグッと通さなあかんとこもやっぱりあるな、とか思ってましたね。刺激をいただいていたというか」(愼示さん)

愼示さんは「その時の僕らの会社はまだ会社とも呼べる状態ではなかったから、仕事の話をするというよりも、ひたすら食事をしながら話を聞かせてもらった」と話します。

そして中川政七との交流を深める中で、北条夫妻は「ブランディング」という概念に出合いました。

ブランディングを意識したチャレンジ「性能は押さず想いを押す」

「家業の改革を進めていく中で、中川さんの『奈良の小さな会社が表参道ヒルズに店を出すまでの道のり。』を読んで。初めて自分がやりたいことが言語化されたものに出合って、すごく衝撃を受けました」(愼示さん)

本での学びを通じ、頭の中にあるもやもやしたイメージの輪郭がはっきりしていった北条夫妻。

そこからは中川政七の本や、その中で紹介されている本などを読み、自分たちの「ブランディング」について考えをまとめ、どんどんチャレンジをしていきます。

「何かを実行しようとするときに、皆さんやっぱり足し算というか、何を追加でやろうかと考えると思うんですけど、逆に何をやらないかをしっかり決めることが大事だと学びました。

やらないことを決めたのが、ブランディングの最初の一歩やったんかなと思います」(愼示さん)
この“やらないこと”の一つとして、当時、ほかの住宅会社では性能を売りにするところが多かった中、北条工務店では「性能を押さない」ことを決めたのだといいます。

これは会社としての歴史が長いことを強みととらえ、提供技術に対する信頼は十分にあると考えていたこと、また性能はすべて数値でわかることから、それを訴求しても自分たちにとっては意味がないと考えたからなのだそう。

性能は打ち出さない。その代わりに夫妻が重要視したのは、北条工務店の家づくりへの想いや、家をつくる時から完成するまでの「物語性」でした。
事業改革前と、改革後の変化の参考資料
「ちょうど雑誌に広告を載せ始めていたので、そこでまず自分たちの打ち出したい想いを伝えることを大切にしました。中川さんがよくおっしゃっていた『きちんと伝えることがすごく大切』というお話が頭に残っていたんですよね。

最初はそんなにお金がないので片ページだけの広告だったこともありましたけど、言葉を一つひとつ選びながら、伝統と歴史がある会社で、安心感もあることを意識的に伝えられるように、と。

性能は日本の住宅ではどこも一定基準を超えているので、うちはそういったことは一切謳わない。私たちの哲学というか、理念というか、そこをわかってもらう方が大切だと思ったんです」(満李子さん)
こうして北条夫妻は、ホームページを自作したり、広告で使う表現を変えたりと、トライアンドエラーを繰り返しながらも自分たちの手で一つずつより良い形を模索していきました。

これまでの事業のあり方を根底から見直していくチャレンジを進めた北条夫妻。3代目であるお父様からの反対こそなかったものの、工事事業者などの仕事のパートナーや、お父様の代から働く従業員から難色を示されることもあったといいます。
「直接相談をしたわけではないんですけど、中川政七商店さんでも組織に関する悩みはあったみたいで。

でも、それって別に気にすることじゃなくて。前を向いて、ただまっすぐにやればいいんだよって、そんな勇気も中川さんからいただきましたね。

中川さんの話を聞いていて学んだのは、冷静さの重要性。どこの会社にも問題がある中で、大事なのは一喜一憂することじゃなくて、常に冷静に、その問題をどう捉えて、どう次の手段を実行するのがいいかを考えることなんだなって」(愼示さん)

「中川さんはいつもちょっと前を歩いてくださっているので、私たちは、たぶんこういうことが自分たちにも次に起こるんだろうな、と思いながらお話を聞いてましたね。そうすると慌てないので、心強かったです」(満李子さん)

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INFO

北条工務店

北条工務店:
奈良県奈良市三碓2-4-15-1
https://www.hojoh.co.jp/

HJ GALLERY:
奈良県奈良市三碓2-4-13-2
https://www.hj-g.jp/

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文:谷尻純子 写真:奥山晴日

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