菩薩咖喱#02
初めての「経営」で、どうポイントを掴むのか
DEVELOPMENT
2020.11.01
近鉄奈良駅から歩いていくと、住宅街のなかに見えてくる1軒のお店。ここは「菩薩咖喱(ぼさつかりー)」と名付けられたカレーの専門店です。
カレーが大好きな店主・吉村萌々さんが、イベントでの出店をきっかけに始めた菩薩咖喱。初出店から半年程度で間借り店舗をオープンし、その後すぐに実店舗のオープンに至りました。
実店舗オープン前は、借入も事業計画書の作成も経験がなかった吉村さん。経営を学ぶ必要に駆られたときに知ったのが、株式会社中川政七商店が手がける奈良のスモールビジネス支援プロジェクト「N.PARK PROJECT」でした。
このプロジェクトで、中期経営計画の作成や管理会計、ブランディングに関するアドバイスや、広報のサポートを受けたことで、吉村さんは出店に踏み出せたといいます。
吉村さんがどんなきっかけで菩薩咖喱をスタートし、プロジェクトにおいてどんな支援を受けて、どうスタートダッシュできたのか。吉村さんへのインタビューにビジネス視点でのポイントを交えながら、菩薩咖喱流のスモールビジネスの始め方を、前編・中編・後編の3本でお送りします。
今回の中編では、吉村さんが間借り店舗を経て何を気づき、実店舗をオープンする上で経営のどんなポイントを学んでいったのかを追っていきましょう。
カレーが大好きな店主・吉村萌々さんが、イベントでの出店をきっかけに始めた菩薩咖喱。初出店から半年程度で間借り店舗をオープンし、その後すぐに実店舗のオープンに至りました。
実店舗オープン前は、借入も事業計画書の作成も経験がなかった吉村さん。経営を学ぶ必要に駆られたときに知ったのが、株式会社中川政七商店が手がける奈良のスモールビジネス支援プロジェクト「N.PARK PROJECT」でした。
このプロジェクトで、中期経営計画の作成や管理会計、ブランディングに関するアドバイスや、広報のサポートを受けたことで、吉村さんは出店に踏み出せたといいます。
吉村さんがどんなきっかけで菩薩咖喱をスタートし、プロジェクトにおいてどんな支援を受けて、どうスタートダッシュできたのか。吉村さんへのインタビューにビジネス視点でのポイントを交えながら、菩薩咖喱流のスモールビジネスの始め方を、前編・中編・後編の3本でお送りします。
今回の中編では、吉村さんが間借り店舗を経て何を気づき、実店舗をオープンする上で経営のどんなポイントを学んでいったのかを追っていきましょう。
菩薩咖喱(ぼさつかりー)
奈良市の「きたまちエリア」にあるカレー専門店。「奈良をカレーの総本山にする!」というコンセプトを掲げ、豆のカレーを基調とする定食スタイルの「ダルバート」を提供している。2018年からイベント出店をスタートし、2019年に間借り店舗、2020年に実店舗をオープン。実店舗オープン前から、中川政七商店の「N.PARK PROJECT」によるフォローを受ける。
固定の店舗を構えたことで、客層が広がった
退職して最初の1ヶ月は、今まで土日のみだったイベント出店を平日にも広げた吉村さん。しかしイベントの限界に気づきます。
「イベントを転々としているスタイルだと、『これが菩薩咖喱のスタイルです』と固めにくいんですよね。固定のお客さんを増やすには限界があるだろうな、と感じ始めました。それなら決まった場所で決まった曜日にお店を出そうと思って、間借りさせてもらうことにしたんです」
「イベントを転々としているスタイルだと、『これが菩薩咖喱のスタイルです』と固めにくいんですよね。固定のお客さんを増やすには限界があるだろうな、と感じ始めました。それなら決まった場所で決まった曜日にお店を出そうと思って、間借りさせてもらうことにしたんです」
間借り時代の写真
退職前から何度かスポット出店していたバーで、昼間に間借りさせてもらうことに決定。利用した日数に応じて家賃を支払う間借りのスタイルと、オーナーの厚意により、格安の家賃でお店を始めることができました。
NAKAGAWA’s eye
さらっと「間借りさせてもらうこと」になったとありますが、このあたりに吉村さんのビジネスセンスの良さを感じます。スタイルが固まらないという「問題」を自ら発見し、その解決策を常に考えていたからこその間借り実現だったと思います。
多くの人は「問題は発生するもの」だと思っています。しかし問題には2種類あります。発生型と発見型です。発見型の問題こそがビジネスを未来へと進化させます。
ではなぜ問題を発見できるのか?
それはこうなりたいという「目標」が明確だからです。目標なくして問題は発見されません。
なぜなら「問題とは目標と現実のギャップ」だからです。
多くの人は「問題は発生するもの」だと思っています。しかし問題には2種類あります。発生型と発見型です。発見型の問題こそがビジネスを未来へと進化させます。
ではなぜ問題を発見できるのか?
それはこうなりたいという「目標」が明確だからです。目標なくして問題は発見されません。
なぜなら「問題とは目標と現実のギャップ」だからです。
「お店を構えると、提供方法に菩薩咖喱らしさを込められるので、カレーの説得力が違ってくるんです。間借りにしてからまず一番に、ずっと使いたいと思っていたステンレスのプレートを買いました」
固定で店舗を構えたことで、店舗を訪れる人の客層も変化していくと同時に、吉村さんが出したいカレーのあり方も徐々に固まっていきます。
「イベントだとイベントに興味がある方だけがお客さんになりますが、間借りにしたことで、年齢層が一気に広がりました。私の両親より上の方々から、若い学生の方まで、客層を説明するのが難しいくらい。そして地元の方も来てくださるようになりました
ですからこれまで以上に、誰でも食べやすいカレーを追求するようになりましたね。あまり辛くしすぎず、食べ応えがあるカレーを模索しています」
固定で店舗を構えたことで、店舗を訪れる人の客層も変化していくと同時に、吉村さんが出したいカレーのあり方も徐々に固まっていきます。
「イベントだとイベントに興味がある方だけがお客さんになりますが、間借りにしたことで、年齢層が一気に広がりました。私の両親より上の方々から、若い学生の方まで、客層を説明するのが難しいくらい。そして地元の方も来てくださるようになりました
ですからこれまで以上に、誰でも食べやすいカレーを追求するようになりましたね。あまり辛くしすぎず、食べ応えがあるカレーを模索しています」
事業計画書を作成してみたら、経営を学ぶ必要性を感じた
吉村さんはいずれは独立店舗をオープンすることを見据えつつ、しばらくは補助金制度を調べながら間借りで経験を積もうと考えていました。仕事をやめて身軽になり、間借りでのカレー屋ライフを楽しんでいたある日。「通らないだろう」と思っていた補助金の申請が通り、急いで実店舗の準備を進めることになります。
「奈良県の補助金申請に通り、年度中に実店舗をオープンしなければいけなくなりました。さらに補助金を満額いただくために、急遽借入も必要になったんです。この時点で9月なので、秋から冬にかけてかなりバタバタしていました」
予想もしなかったタイミングで、実店舗の出店が決定。初めて事業計画書と向き合った吉村さんは、「菩薩咖喱」の名前で続けてきた自分の店舗をどんな場所にしたいのか、あらためて向き合います。
「自分の経歴、今どういうことをやっているのか、お店をどうしていきたいか。これまで思いは持ちながらも明確に言葉にしてこなかった部分も含めて、ひとつひとつ向き合うプロセスでした。
特に奈良県からいただく補助金なので、菩薩咖喱を奈良でやる理由を明確にする必要があって。奈良についてたくさんリサーチして、カレーと奈良を結びつける意味を説明できるように考えました」
「奈良県の補助金申請に通り、年度中に実店舗をオープンしなければいけなくなりました。さらに補助金を満額いただくために、急遽借入も必要になったんです。この時点で9月なので、秋から冬にかけてかなりバタバタしていました」
予想もしなかったタイミングで、実店舗の出店が決定。初めて事業計画書と向き合った吉村さんは、「菩薩咖喱」の名前で続けてきた自分の店舗をどんな場所にしたいのか、あらためて向き合います。
「自分の経歴、今どういうことをやっているのか、お店をどうしていきたいか。これまで思いは持ちながらも明確に言葉にしてこなかった部分も含めて、ひとつひとつ向き合うプロセスでした。
特に奈良県からいただく補助金なので、菩薩咖喱を奈良でやる理由を明確にする必要があって。奈良についてたくさんリサーチして、カレーと奈良を結びつける意味を説明できるように考えました」
自力で事業計画書を完成させたものの、これまでは「感覚でお店を続けてきた」吉村さんは、経営を学ぶ必要性を痛感します。そのころたまたまTwitterで見かけたのが、中川政七のツイートでした。
「奈良市内で飲食業とデザイン事務所をやりたい人がいたら、お手伝いできることがあると思うのでDMをください、といった内容のツイートを見て、今やっていること、これからやろうとしていることをメッセージしました。
そして実際にお会いしたときに、資金の調達や実店舗の出店を考える上で経営の素養がないこと、ブランディングをしたいこと、自分でお店を持つにあたって広報力を不安に思っていることの3点をメインにご相談したんです。そしたらその場で『ご協力できると思います』とお返事をいただきました」
こうして2019年10月、吉村さんの一歩がきっかけで、N.PARK PROJECTから菩薩咖喱へのサポートがスタートしました。
「奈良市内で飲食業とデザイン事務所をやりたい人がいたら、お手伝いできることがあると思うのでDMをください、といった内容のツイートを見て、今やっていること、これからやろうとしていることをメッセージしました。
そして実際にお会いしたときに、資金の調達や実店舗の出店を考える上で経営の素養がないこと、ブランディングをしたいこと、自分でお店を持つにあたって広報力を不安に思っていることの3点をメインにご相談したんです。そしたらその場で『ご協力できると思います』とお返事をいただきました」
こうして2019年10月、吉村さんの一歩がきっかけで、N.PARK PROJECTから菩薩咖喱へのサポートがスタートしました。
言語化が進んだブランディング、ステップが明確になった経営レクチャー
2019年10〜11月、N.PARK PROJECTのサポートとして「第1フェーズ」が始まりました。この時期に吉村さんが取り組んだのは、現状把握とブランディングです。
「まずは中川さんに『経営とデザインの幸せな関係』を手渡されて、書籍にある項目を洗い出していきました。あらためて菩薩咖喱の現状と向き合う機会になりましたね。次に自分でSWOT分析(※1)をし、中川さんにシートを提出してまたお話しし、グランドマップ(※2)の作成へと進みました」
書籍を教科書にしてシートを記入し、完成したら中川と面談し、また次のシートへ。月に1〜2回は中川と話をしながら、持っていた思いをより多くの人に伝えやすい形へと組み立てていきました。
「間借りの頃から『何をやりたいのか』を考えてきたので、今まで育ててきた思いを他の人にも伝えやすくするにはどう言葉にするのか、中川さんにアドバイスをいただきながら考えていきました。
たとえば菩薩咖喱のビジョンとして最初に掲げていたのは、『奈良をカレーのまちにする』。これだとぼんやりしていますよね。そこでぴったりの言葉を考えて、最終的に『奈良をカレーの総本山にする』に決めたんです。『総本山』の言葉が適切かどうか、中川さんと何度も議論しました」
「まずは中川さんに『経営とデザインの幸せな関係』を手渡されて、書籍にある項目を洗い出していきました。あらためて菩薩咖喱の現状と向き合う機会になりましたね。次に自分でSWOT分析(※1)をし、中川さんにシートを提出してまたお話しし、グランドマップ(※2)の作成へと進みました」
書籍を教科書にしてシートを記入し、完成したら中川と面談し、また次のシートへ。月に1〜2回は中川と話をしながら、持っていた思いをより多くの人に伝えやすい形へと組み立てていきました。
「間借りの頃から『何をやりたいのか』を考えてきたので、今まで育ててきた思いを他の人にも伝えやすくするにはどう言葉にするのか、中川さんにアドバイスをいただきながら考えていきました。
たとえば菩薩咖喱のビジョンとして最初に掲げていたのは、『奈良をカレーのまちにする』。これだとぼんやりしていますよね。そこでぴったりの言葉を考えて、最終的に『奈良をカレーの総本山にする』に決めたんです。『総本山』の言葉が適切かどうか、中川さんと何度も議論しました」
NAKAGAWA’s eye
吉村さんの場合、やりたいこと・なりたい姿、つまり「菩薩咖喱のビジョン」が自分の頭の中にありました。これはかなり稀有なことです。普通目の前のやりたいことはあっても、その先のことまであまり考えないものです。
なので、ビジョンをきちんと言葉にすることから始まりました。ビジョンもコンセプトも人に伝わって初めて意味をなします。しかしお客さまはだれもビジョンを知りたいなんて思っていません、ただカレーを食べに来ただけ。笑
そういうお客さんの頭の中に入り込んでいくには「言葉の精度」が大切なのです。
なので、ビジョンをきちんと言葉にすることから始まりました。ビジョンもコンセプトも人に伝わって初めて意味をなします。しかしお客さまはだれもビジョンを知りたいなんて思っていません、ただカレーを食べに来ただけ。笑
そういうお客さんの頭の中に入り込んでいくには「言葉の精度」が大切なのです。
この時期に吉村さんが中川からもうひとつアドバイスを受けたのが、吉村さんが最も懸念していた経営部分。中期経営計画の作成と管理会計でした。
「最初に教えてもらったのは、経営計画や損益計算です。これまであまり管理せずに間借り店舗を運営していたので、『損益分岐点がここだから、1日の売り上げとしてこの額が必要だ』と初めて明確にしました。
「最初に教えてもらったのは、経営計画や損益計算です。これまであまり管理せずに間借り店舗を運営していたので、『損益分岐点がここだから、1日の売り上げとしてこの額が必要だ』と初めて明確にしました。
NAKAGAWA’s eye
当たり前のことですが、「計画」は重要です。
計画がないままに進むと今うまくいっているのか、そうでないのかすらわかりません。計画=目標があって初めて問題が見えてくるのです。問題の所在がわからないと、うまくいかなかった時にどうしたらいいのかわからなくなり、途方に暮れてしまいます。
問題解決の成否は「正しく問題を把握すること。
計画がないままに進むと今うまくいっているのか、そうでないのかすらわかりません。計画=目標があって初めて問題が見えてくるのです。問題の所在がわからないと、うまくいかなかった時にどうしたらいいのかわからなくなり、途方に暮れてしまいます。
問題解決の成否は「正しく問題を把握すること。
『お金の管理』と聞くと果てしない話に聞こえますが、『ここを理解していることが重要だ』とポイントを教わったことで、経営を怖くないと思えるようになったんです。何が必要か分からない状態から土台を整えた状態に進めて、あとはやるだけだなと思えましたね」
2ヶ月かけてN.PARK PROJECTの第1フェーズを終えた吉村さんと菩薩咖喱は、3ヶ月後に迫る実店舗オープンに向け、さらなる準備を加速させていきます。
※1:SWOT分析
Strength(活かすべき強み)Weakness(克服すべき弱み)、Opportunity(市場機会はあるか)、Threat(回避すべき脅威)の頭文字。マーケティングで戦略目的を引き出す際に使用するフレームワーク。
※2:グランドマップ
中期経営計画における定性的な目標。中川政七商店では、定量的な目標とともに経営において重要な項目と考えている。
2ヶ月かけてN.PARK PROJECTの第1フェーズを終えた吉村さんと菩薩咖喱は、3ヶ月後に迫る実店舗オープンに向け、さらなる準備を加速させていきます。
※1:SWOT分析
Strength(活かすべき強み)Weakness(克服すべき弱み)、Opportunity(市場機会はあるか)、Threat(回避すべき脅威)の頭文字。マーケティングで戦略目的を引き出す際に使用するフレームワーク。
※2:グランドマップ
中期経営計画における定性的な目標。中川政七商店では、定量的な目標とともに経営において重要な項目と考えている。
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