菩薩咖喱#01
「買う」から「作る」へ。カレー人生を変えた日
IDEA
2020.11.01
近鉄奈良駅から歩いていくと、住宅街のなかに見えてくる1軒のお店。ここは「菩薩咖喱(ぼさつかりー)」と名付けられたカレーの専門店です。
カレーが大好きな店主・吉村萌々さんが、イベントでの出店をきっかけに始めた菩薩咖喱。初出店から半年程度で間借り店舗をオープンし、その後すぐに実店舗のオープンに至りました。
実店舗オープン前は、借入も事業計画書の作成も経験がなかった吉村さん。経営を学ぶ必要に駆られたときに知ったのが、株式会社中川政七商店が手がける奈良のスモールビジネス支援プロジェクト「N.PARK PROJECT」でした。
このプロジェクトで、中期経営計画の作成や管理会計、ブランディングに関するアドバイスや、広報のサポートを受けたことで、吉村さんは出店に踏み出せたといいます。
吉村さんがどんなきっかけで菩薩咖喱をスタートし、プロジェクトにおいてどんな支援を受けて、どうスタートダッシュできたのか。吉村さんへのインタビューにビジネス視点でのポイントを交えながら、菩薩咖喱流のスモールビジネスの始め方を、前編・中編・後編の3本でお送りします。
今回は前編、吉村さんが間借りで店舗を始めるまでの歩みをどうぞ。
カレーが大好きな店主・吉村萌々さんが、イベントでの出店をきっかけに始めた菩薩咖喱。初出店から半年程度で間借り店舗をオープンし、その後すぐに実店舗のオープンに至りました。
実店舗オープン前は、借入も事業計画書の作成も経験がなかった吉村さん。経営を学ぶ必要に駆られたときに知ったのが、株式会社中川政七商店が手がける奈良のスモールビジネス支援プロジェクト「N.PARK PROJECT」でした。
このプロジェクトで、中期経営計画の作成や管理会計、ブランディングに関するアドバイスや、広報のサポートを受けたことで、吉村さんは出店に踏み出せたといいます。
吉村さんがどんなきっかけで菩薩咖喱をスタートし、プロジェクトにおいてどんな支援を受けて、どうスタートダッシュできたのか。吉村さんへのインタビューにビジネス視点でのポイントを交えながら、菩薩咖喱流のスモールビジネスの始め方を、前編・中編・後編の3本でお送りします。
今回は前編、吉村さんが間借りで店舗を始めるまでの歩みをどうぞ。
菩薩咖喱(ぼさつかりー)
奈良市の「きたまちエリア」にあるカレー専門店。「奈良をカレーの総本山にする!」というコンセプトを掲げ、豆のカレーを基調とする定食スタイルの「ダルバート」を提供している。2018年からイベント出店をスタートし、2019年に間借り店舗、2020年に実店舗をオープン。実店舗オープン前から、中川政七商店の「N.PARK PROJECT」によるフォローを受ける。
初めて自分で発信したいと思えたテーマが「カレー」だった
吉村さんのお母さまがつくったカレー
25歳で実店舗のカレー屋をスタートした、菩薩咖喱の吉村さん。幼い頃からカレー好きであったものの、明確にカレー好きを自覚したのは大学生の頃でした。
「母が料理好きなのでカレーにもこだわりがあって、当たり前のようにカレーを食べて育ちました。自分がカレー好きであると認識していなかったのですが、奈良市内で過ごした大学時代に飲食店をめぐるなかで、カレーに触れる機会が増えていって。だんだん『カレー好きやな』と気づき始め、メニューにカレーがあったら必ず注文するようになりました」
大学4年生の頃にはカレー屋でアルバイトを始め、カレーの奥深さに惚れ込みます。とはいえ就職活動でカレーに関わる仕事をする選択肢を考えていなかった吉村さんは、大阪のプラスチック系メーカーで会社員生活を始めました。最初の配属は営業部だったことが、吉村さんがカレーとの関わりを深めるきっかけになります。
「母が料理好きなのでカレーにもこだわりがあって、当たり前のようにカレーを食べて育ちました。自分がカレー好きであると認識していなかったのですが、奈良市内で過ごした大学時代に飲食店をめぐるなかで、カレーに触れる機会が増えていって。だんだん『カレー好きやな』と気づき始め、メニューにカレーがあったら必ず注文するようになりました」
大学4年生の頃にはカレー屋でアルバイトを始め、カレーの奥深さに惚れ込みます。とはいえ就職活動でカレーに関わる仕事をする選択肢を考えていなかった吉村さんは、大阪のプラスチック系メーカーで会社員生活を始めました。最初の配属は営業部だったことが、吉村さんがカレーとの関わりを深めるきっかけになります。
当時の投稿
当時の私にとって、働くことのモチベーションはカレーにあったと言えるくらい、カレーが仕事の支えでしたね。外回りしながら大阪市内のカレー店をめぐり、さまざまな種類のカレーを味わうのが私の仕事サイクルでした」
この頃から、単にカレーを食べるだけでなく、記録として食べたカレーをInstagramで発信するように。こういうことを発信したい、と自分から動き出した初めての経験でした。
「カレーについて発信することが、食べ歩きにおける目的のひとつになっていきました。せっかくこんなに足を動かしてお金をかける趣味なら、カレーとどう関わっていくか、方向性を決めたほうがいいなと思って。ずっと見つからなかった『自分が表現したいテーマ』をようやく見つけた感覚でしたね」
この頃から、単にカレーを食べるだけでなく、記録として食べたカレーをInstagramで発信するように。こういうことを発信したい、と自分から動き出した初めての経験でした。
「カレーについて発信することが、食べ歩きにおける目的のひとつになっていきました。せっかくこんなに足を動かしてお金をかける趣味なら、カレーとどう関わっていくか、方向性を決めたほうがいいなと思って。ずっと見つからなかった『自分が表現したいテーマ』をようやく見つけた感覚でしたね」
夢への一歩目は、イベント出店だった
仕事を続けながら自分らしいカレーとの関わり方を見出した矢先、吉村さんの日常を揺るがす知らせが突然舞い込みます。それは1年半にわたって在籍してきた営業部から、内勤の部署への異動通知でした。
「営業の仕事にやりがいを感じていたこともありますが、いちばん残念だったのはカレーとの関わりが急激に減ってしまうことです。働くことのモチベーションがカレーにあった私にとって、外回りのついでにお店のカレーを食べられなくなることは致命的でした」
「営業の仕事にやりがいを感じていたこともありますが、いちばん残念だったのはカレーとの関わりが急激に減ってしまうことです。働くことのモチベーションがカレーにあった私にとって、外回りのついでにお店のカレーを食べられなくなることは致命的でした」
趣味に打ち込む手段を急に失い、吉村さんは今後カレーにどう関わるかを悩みます。なんとか見出した手段が、カレー作りでした。
「カレーとの関わりが格段に少なくなる以上、お店に行ってカレーを食べるのではなく、自宅でカレーを作るという関わり方を強化しよう、と決めました。カレー作りは大学生の頃から始めていましたが、異動によってカレーの『自給自足』を余儀なくされたので、これまで以上にカレー作りに打ち込むことにしたんです」
自分のためにカレーを作ることを「自給自足」と表現する吉村さん。カレー作りに注力することで、自給自足だけでなく友人や家族に食べてもらう機会が増えてきたころ、カレーとの関わり方を変えるきっかけが舞い込みます。
「カレー屋を出店している知人に、イベントに出店してみないかと誘っていただきました。正直、自分が人に提供できるレベルのものを作っている自信がなくて、引き受けるか悩んだんです。でもせっかくのチャンスですし、家族も後押ししてくれたので、まずは気軽な気持ちで出店してみました」
2018年12月、初めて「菩薩咖喱」と看板を掲げてイベント出店を経験。これまで趣味の範囲にとどまっていた吉村さんのカレー作りは、いつの間にか確実に人に届くものとなっていたのでした。
「カレーとの関わりが格段に少なくなる以上、お店に行ってカレーを食べるのではなく、自宅でカレーを作るという関わり方を強化しよう、と決めました。カレー作りは大学生の頃から始めていましたが、異動によってカレーの『自給自足』を余儀なくされたので、これまで以上にカレー作りに打ち込むことにしたんです」
自分のためにカレーを作ることを「自給自足」と表現する吉村さん。カレー作りに注力することで、自給自足だけでなく友人や家族に食べてもらう機会が増えてきたころ、カレーとの関わり方を変えるきっかけが舞い込みます。
「カレー屋を出店している知人に、イベントに出店してみないかと誘っていただきました。正直、自分が人に提供できるレベルのものを作っている自信がなくて、引き受けるか悩んだんです。でもせっかくのチャンスですし、家族も後押ししてくれたので、まずは気軽な気持ちで出店してみました」
2018年12月、初めて「菩薩咖喱」と看板を掲げてイベント出店を経験。これまで趣味の範囲にとどまっていた吉村さんのカレー作りは、いつの間にか確実に人に届くものとなっていたのでした。
大規模なイベントで、「カレーでやっていく」覚悟を決めた
吉村さんがデザインした菩薩咖喱Tシャツ
ベント出店によってカレーを届ける手応えを得た吉村さんは「もっと挑戦してみたい」と思い、SNSでも出店に関する発信をスタート。少しずつ出店依頼が増え、半年もしないうちに、2週間に1回はカレーに関わる予定が週末を埋めるようになりました。
「自分のためにカレーを研究するよりも、人に食べてもらうことを前提でつくるほうが楽しいと気づきました。『自給自足』と違って、お客さんが気づかないかもしれない工夫を入れるのがおもしろいなと感じます」
少しずつ「カレー作りに本腰を入れたいな」という思いが芽生えていた吉村さんに、新卒3年目の春、転機が訪れます。それが、会社員生活にピリオドを打つきっかけとなったイベント「アースデイ奈良」です。
「自分のためにカレーを研究するよりも、人に食べてもらうことを前提でつくるほうが楽しいと気づきました。『自給自足』と違って、お客さんが気づかないかもしれない工夫を入れるのがおもしろいなと感じます」
少しずつ「カレー作りに本腰を入れたいな」という思いが芽生えていた吉村さんに、新卒3年目の春、転機が訪れます。それが、会社員生活にピリオドを打つきっかけとなったイベント「アースデイ奈良」です。
誰もが気軽に参加できて、1,000人以上の来場者が訪れるイベントでの出店は、吉村さんにとって初めて経験することばかり。70食を用意して臨んだ本番、カレーは1時間ほどで売り切れになりました。
「これまでにない人数と客層の方にカレーを食べてもらえて嬉しかったですし、『カレーでやっていきたい』と心を決めるきっかけになりました。少しずつたまっていた思いが、最後に決壊したんだと思います。アースデイの翌日には、上司に『退職します』と伝えました」
イベント出店を重ねるうちに、家族からも「はよ会社辞めてお店出したらいいやん」と応援してもらえていたんだとか。でも何よりの決め手として、吉村さんが歩む「カレー人生」への思いがありました。
「上司には『もうちょっと考えたら?』と言われましたが、あと1年待ったところで何も変わらない。間借りやイベントのスタイルなら、準備も必要なく、いつでも始められます。それなら若いうちに経験を増やせたほうが、私の『カレー人生』において強みになるんじゃないかなと思ったんです」
吉村さんはそのままアースデイの2ヶ月後に退職し、本格的に「カレー人生」を歩み始めます。
「これまでにない人数と客層の方にカレーを食べてもらえて嬉しかったですし、『カレーでやっていきたい』と心を決めるきっかけになりました。少しずつたまっていた思いが、最後に決壊したんだと思います。アースデイの翌日には、上司に『退職します』と伝えました」
イベント出店を重ねるうちに、家族からも「はよ会社辞めてお店出したらいいやん」と応援してもらえていたんだとか。でも何よりの決め手として、吉村さんが歩む「カレー人生」への思いがありました。
「上司には『もうちょっと考えたら?』と言われましたが、あと1年待ったところで何も変わらない。間借りやイベントのスタイルなら、準備も必要なく、いつでも始められます。それなら若いうちに経験を増やせたほうが、私の『カレー人生』において強みになるんじゃないかなと思ったんです」
吉村さんはそのままアースデイの2ヶ月後に退職し、本格的に「カレー人生」を歩み始めます。
NAKAGAWA’s eye
会社で働く以上、所属する会社のビジョンと自分のビジョンとの重なり合いを見つけて、仕事に取り組むのがあるべき姿です。それが出来ないときは潔く辞める。吉村さんの思い切りの良さを感じます。笑
通常、会社を辞めると言うと親御さんが反対するものですがそれもなく、かつイベント出店という形でスモールに始めることが出来たのも幸いしたと思います。
よく「独立するためにどれくらい準備すればよいですか?」と聞かれますが、どこまでやっても万全な準備などありません。(そもそも絶対に成功するビジネスなどありえないので)
ですので、やろうと思い立ったら、即始めることをおすすめします。形は何でも良いのです。まず小さくとも始めてみること、それが何より大切です。
通常、会社を辞めると言うと親御さんが反対するものですがそれもなく、かつイベント出店という形でスモールに始めることが出来たのも幸いしたと思います。
よく「独立するためにどれくらい準備すればよいですか?」と聞かれますが、どこまでやっても万全な準備などありません。(そもそも絶対に成功するビジネスなどありえないので)
ですので、やろうと思い立ったら、即始めることをおすすめします。形は何でも良いのです。まず小さくとも始めてみること、それが何より大切です。
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