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中川政七商店#02

「日本の工芸を元気にする!」からN.PARK PROJECTまでの道のり。 中川政七商店 十三代 中川政七インタビュー(中編)

IDEA
2021.02.09
手に取ると丁寧につくられたものであることが伝わる。日本の工芸をベースにした衣料品やうつわ、調理器具などの生活雑貨全般をつくり、販売する中川政七商店を訪れる人の多くは、店頭に置かれた商品一つひとつが持つ時間の厚みを、どこかで感じているのではないでしょうか。

中川政七商店が現在のように全国で店舗展開するようになった始まりは、十三代 中川政七が日本各地の工芸が衰退する中で、自分たちのものづくりを正しくお客様に伝えようと思ったことでした。

そこから2003年に、東京デザイナーズウィークで自社ブランド「粋更(きさら)」を発表。2006年には表参道ヒルズにフラッグシップショップをオープン。さらに2007年には「日本の工芸を元気する!」というビジョンを打ち立て、2008年に十三代 中川政七が代表取締役に就任しました。

「日本の工芸を元気にする!」ためには、まずは“産地の一番星”をつくらなくてはならないと考えた中川政七は、その後、自社のビジネスを再生させたノウハウを活かして日本全国の工芸産地でコンサルティングを行なうようになります。

そして2020年。これまで日本各地で行ってきたコンサルティングを奈良でも展開し、「スモールビジネスで奈良を元気にする!」をコンセプトにしたN.PARK PROJECTをスタートさせました。

本インタビューでは「日本の工芸を元気する!」というビジョンが、どのような変遷を辿りN.PARK PROJECTに発展するに至ったか、N.PARK PROJECTが目指すところを前・中・後編にわたってお伝えします。
十三代 中川政七
1974年奈良県生まれ。京都大学法学部卒業後、2000年富士通に入社。2002年に家業を継ぐべく中川政七商店に入社、2008年に代表取締役社長に就任。「粋更」「中川政七商店」など工芸品をベースにした自社ブランドを確立し、全国に直営店を展開する。また2009年から経営コンサルティング事業を開始し、工芸産地の経営再建に尽力。2018年3月からは代表取締役会長に就任。著書に『奈良の小さな会社が表参道ヒルズに店を出すまでの道のり。』『経営とデザインの幸せな関係』『小さな会社の生きる道。』など多数。

中川政七流の街づくり

―「奈良を元気にする」ことのゴールは具体的に何でしょう?

中川政七(以下、中川):奈良は、県外への就職率が全国1、2位を争う県です。ですが、ありがたいことに中川政七商店は県外からの就職者が9割を占めます。うちの社員もみんな最初は寺社仏閣があって喜ぶのですが、刺激が少ないので2、3年もすると「東京に帰りたい」という人が出てくる。つまり、彼らの視点で見るとある意味退屈な街なんですね。それを解決することは奈良の街を元気にすることとイコールであると思っています。

また奈良に住まい、暮らしている人たちは、休日になると京都や大阪に遊びに出てしまいがちであるというのも、奈良の大きな特徴です。つまり、奈良の中で経済が回らない。

生活の中には家があり会社がある。それ以外はどこかのお店に行くなどして、街で過ごしますよね。街を構成する要素って店の割合が圧倒的に大きいと思うんです。もし人が休日に京都や大阪には行くけど奈良には行かないとすると、つまり奈良にいい店が少ないということじゃないかと思いました。いい街の定義は何かと言うと、いい店があり、いい人が集っていて、いいコミュニティができてくることかと。
―それでスモールビジネスを育てるという考えに至られたんですね。

中川:はい。また海外の人が消費する金額の都道府県別ランキングがあるんですが、奈良県はそこでも順位が低い。

奈良に訪れる観光客の多さは全国で6位。しかし、その人たちが奈良で消費する1人あたりの金額は全国で47位です。圧倒的な歴史遺産があり、人はたくさん来てくださっている。でもいい店が少ないから、例えば「宿は大阪に泊まろう」「夜は京都で食事をしよう」となり、お金が落ちない。

歴史的遺産は先人の手柄です。一方、僕らはそこにあぐらをかいている状況。奈良にはこうした状況を表す「大仏商売」という言葉があるぐらいなんです。「大仏さんが人を呼んでくれて、努力せんでも食うに困らん」と。頑張るだけ損みたいな空気がある。企業の魅力度ランキングも47位、上場企業も最下位か最下位から2番目ぐらいです。県民1人あたりのGDP(県民生産性)も奈良はワースト1。ネガティブな数字の要素が揃ってるんですね。これだけ数字が悪いと、返って「これは面白い。何とかしよう」と思えてきたんです。
―具体的な数字目標はありますか。
中川:奈良県のGDPは3兆6000億円。もはや桁がよくわからない数字ですけど、ともかく10年で10パーセントの3600億円を、中川政七商店だけでなく県全体で上げたいと目標に掲げました。中川政七商店はそのうちの1割程度に責任を持つことにした。つまり10年でGDPを300億円あげると決めたんです。

その上げ方は2つ。中川政七商店など既存企業の売り上げアップと、新しく奈良で商売を始める人の売り上げで合計300億円。中川政七商店は10年後には今から30億円くらいはアップしてる計画なので、1割をまずは確保です。

また現在コンサルティングしている奈良の中堅企業の売り上げも新たに見込めるため、残りを新しいビジネスでつくると決めました。とは言っても、ビジネスの規模は別に上場していなくてもいい。個人経営の飲食店などを増やしていきたいですね。
新しい飲食店が街に誕生して、人気になって2店舗目ができるとすると、売り上げは1億円超え程度になります。1億円のスモールビジネスをやる人を、10年で200人作れば200億円です。年間にすると20人ですが、当然比例的に人数は伸びるので最初のコンサルティング対象者は3人でもいいんです。ただ最初に、圧倒的にうまくいく事例を仕込むことを意識しています。

奈良をスモールビジネスのメッカに

―なぜ大手企業による事業ではなく、スモールビジネスを重視するのでしょう?

中川:GDPを上げるには大企業や工場を誘致すれば手取り早いですが、日本の人口は増えないし、前時代的な労働集約型の事例はもう起こらない。またいい工場があっても住んでる人にはあまり関係がないですしね。GDPは結果として上がれば良いわけで、いい街にするためにいい店があって欲しいなと思ったんです。そこでスモールビジネスが浮上しました。

ではそれがチェーン店になればいいかと言うと、そうでもない。地方の個人店にしか出せない魅力ってあるじゃないですか。今は情報インフラがあるのでどんなに山奥でもいい店であれば人は見つけて集まります。そういう意味では今は地方とかスモールビジネスにとってはとてもいい時代だと思います。

また一市民としても責任ある商売をやって欲しい。瞬間的にすごく儲けてダメになったら事業体を変えればいい、みたいなのはあまり嬉しくないですよね。だから僕たちがつくり、支援していくスモールビジネスでは、1階が店舗で店主はその2階に住んでいて、責任ある商売をずっと続ける、みたいな顔の見えるいいお店をイメージしています。
―2018年に中川政七商店の代表取締役を十四代の千石あや氏に譲り、会長になられたわけですが、このタイミングでの代替わりにはどのような意図があったのでしょうか。

中川:これまで、できることの全てを注ぎ込んで仕事をしてきました。引退のタイミングを設定したことでここまでの熱量が出せた。一応の道筋はつくってきましたが、日本の工芸を元気にすることを頂上にすると、まだまだだと思います。僕についてきてもらう形では、さらに上がっていくのに限界がある。だから、社長交代によってトップダウンの体制から会社の全員が成長し続けるチームワークの体制へ、変化の舵を切りました。
―これからは会長としてN.PARK PROJECTに専念されるのですね。

中川:はい、既存の商売は千石に任して、僕は別働隊で奈良の街づくりに注力します。今は取締役会の時以外は、中川政七商店のSPA事業の方は見ないようにしているんです。僕が代表になった後、父親からは一切口出しされなかったので、よくある事業継承にまつわる親子喧嘩もなかった。それと同じ状況です。

N.PARK PROJECTの「スモールビジネスで奈良の街を元気にする!」というビジョンは、直接的には中川政七商店の商売に繋がるわけじゃないですが、産地を何とかしたいという根底にある思いは同じですから、N.PARK PROJECTで奈良を元気にしていきたいですね。

―後編に続く。―

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N.PARK PROJECT(中川政七商店)

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文:Hemmendinger 綾 写真:奥山晴日

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