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堀内果実園#01

創業明治36年、吉野の柿農家が新しいビジネスモデルを打ち出すまで

IDEA
2020.11.01
奈良県五條市西吉野町は古くから柿の栽培が盛んに行われてきた地域です。堀内農園(現、堀内果実園)は創業明治36年。現在は6代目の堀内俊孝さんが跡を継ぎ、農薬使用を約5割に抑えた特別栽培で柿、梅、すもも、かりん、ブルーベリーなどを栽培しています。

若者の果物離れや、天候によって収益が大きく左右される農業のあり方に疑問と危機感を抱いていた堀内俊孝(ほりうち としたか)さんは、奥様の奈穂子さんとともに約20年前から加工品を開発してきました。しかし、法人化のタイミングで売上や雇用のことなど抱える悩みも多かったと言います。

そんな時、堀内さん夫妻がコンサルティングを依頼したのが株式会社中川政七商店(以下、中川政七商店)でした。ブランドの顔ともなるロゴ、ネーミングやホームページ開発、商品開発のサポートを受け、販路は飛躍的に拡大し今では奈良と大阪にカフェを2店舗、東京に物販の直営店を1店舗を持つまでに成長しました。

いち老舗農家であった堀内さん夫妻がどのような経緯で中川と出会い、どのような支援を受けてフルーツを核とするビジネスを展開するに至ったか、前・中・後の3編でお届けします。
堀内果実園(ほりうちかじつえん)
奈良県南西部の五條市にある農園。明治36年の創業以来、柿・梅などを中心に果樹栽培を専門に行う果樹農家。2012年に中川政七商店のコンサルティングを受け堀内農園から堀内果実園として生まれ変わり、現在ではフルーツの生産、加工品の製造・販売、「くだものを楽しむお店」をコンセプトにしたカフェの運営までを手がけている。

老舗の柿農家が抱いていた危機感と新たな取り組み

「吉野」といえば吉野山の千本桜や吉野杉が有名。一方「西吉野」と呼ばれる地域は、大正末期ごろから柿の栽培が行われてきた全国有数の柿の産地です。「堀内農園」はこの地で代々柿農家として柿、梅、かりんなどの栽培を続けてきました。台風被害によるリスクヘッジのため、果樹畑は集落の数カ所に点在していますが、作付け面積は合計11ヘクタール。東京ドーム2つ半にも及びます。

「農家の長男は継ぐことが当たり前」。今でもそんな空気感が集落に漂うと言われる西吉野で、農家の長男として生まれた俊孝さんが東京の農業大学に進学したのは、それが自然な道だったからだそうです。

俊孝さんの奥様であり取締役の奈穂子さんも奈良県出身。しかしご主人と出会うまでは農業とは縁遠いシティガールでした。生い茂る柿畑の横を通り、初めてご主人の実家を訪れた時に「柿の木はどこ?」と聞いて笑われたというのは、もうずいぶん懐かしいエピソードです。「柿の手入れや収穫がしやすいように、樹高を低く枝を横に這わせるように成形するんです。でもそんな柿の木を見たのが初めてだったから、最初はわからなかったんですよね」と奈穂子さんは当時を振り返って笑います。
奈穂子さんが俊孝さんと夫婦になった頃、俊孝さんはすでにある危機感を抱いていたと言います。「青果は豊作だと値段がつかないんです。市場に持って行っても『その辺で捨てておいて』と言われる。1年という歳月をかけて育てたのに、作物を捨てると赤字にしかならない。売り上げがいい時と悪い時の差があり不安定。家族経営なら何とかなるが、これでは従業員を安定的に雇うのが難しいと主人は思っていたようです」と奈穂子さんは言います。

それまで「堀内農園」はJAに出荷せず、市場と地域の仲買に青果を卸していました。このままではいけないと感じていた2人は、結婚してすぐ新たな販路の開拓を始めました。売り先は俊孝さんが学生時代を過ごした東京。都内の高級スーパーや自然食品を扱うお店に営業をかけ俊孝さんが契約を取り、奈穂子さんが事務仕事を担う二人三脚で小口出荷をスタートさせました。
もう一つ始めたことは新しい作物の栽培。2人は若者の果物離れを懸念していました。「皮を剥くのも面倒、手が汚れると言って果物を敬遠する若い人や、たくさんあっても食べきれないから買わないという独り暮らしの人が増えた。そんな人にももっとフルーツを食べてもらいたいという思いがあったんです」と奈穂子さんは言います。

そこで既存の作物の栽培スケジュールの端境期に収穫でき、おしゃれなイメージで食べやすい果物を考えた末、ブルーベリーの栽培を始めました。

「それまで果樹園ではなかった土地の開墾から初めました。当初は初期投資に費用をかけられないのでスプリンクラーもなく、水やりも全て手作業。太いホースを抱えて水をまく作業を毎日、毎日続けていました」と奈穂子さんは当時を振り返りました。
二人は同時に柿をスライスさせてドライ加工した柿チップとあんぽ柿の製造・販売もスタートさせました。朝から農作業と子どもの世話、夜は子どもを寝かしつけてから柿チップを作るというハードな生活でしたが、柿チップは好評で徐々に売り上げも上がってきたと言います。「やればやっただけの手応えはある」と感じた夫婦は、ブルーベリーと梅のジャムも製造をスタート。気づくと加工品のラインナップが増えてきました。今でこそ農家が作物を加工することが増えてきたものの、約20年前に加工品の製造を意識的に行っていた農家はまだまだ少数派。そしてその頃から食の安心・安全が求められるようになり、「顔の見える生産者」であることに価値がおかれる時代になった、と奈穂子さんは言います。

都心部のデパートへも出荷

世の中の市場の動きや消費者のニーズを読み、堀内夫妻は次第に「お客さんと直接話せる場所」を求めてマーケットやマルシェ、百貨店の催事に出店するようにもなりました。

「催事やマーケットに出店させてもらったとき周りを見るとみんなラベルが可愛い。うちのジャムより量が少なく価格が高くても売れていくんです。当時は加工品が増えるたびに、その都度地元のラベル屋さんにシールをデザインしてもらっていたので統一感がなかったんです。なので販売ブースもパッと見て堀内農園だとはわからなかったんですよね」。

デザイン以外にもいくつか問題がありました。青果物の流通は一般に市場やJAに卸すか、大手商社をはじめとする仲買いを経て小売店に流通します。首都圏のデパートに参入しようにも大手の商社が流通に参入しているのでチャンスは滅多になく営業には苦労しました。

「デパートに商談に行っても『どこの商社に卸してるの?卸先あるでしょう?』と聞かれることがしばしばでした。『いえ、うちは直接取引させていただいているんです。商社を通すことでこちら側の売り値を下げて、上代は他社と同じように売りたいと仰るなら、残念ですがうちは出させていただくことはできません』と説明していました」と奈穂子さんは言います。
それは通常よりも農薬を5割も削減し、草刈りや剪定、摘蕾(てきらい:花の蕾を減らすことで1つの蕾に多くの栄養を渡らせる作業)、摘果(1つの果実に栄養を渡らせるために実を減らす作業)など手塩にかけて特別栽培の果物を作り続ける生産者として、当然の言葉だったのでしょう。全力投球で営業をかけ、いざイベントや催事の出店が決まったとしても悩みは尽きません。

「うちには営業マンがいるわけでもない。百貨店の催事に出店できたとしても、うちは青果の生産、加工も全部をまかなっていて、営業なんてなかなか手が回らず。常設での取り扱いやカタログに継続して掲載してもらうことに苦労しました」と奈穂子さんは当時を振り返りました。

しかし何とか取引先を増やしていくにつれて、売り上げは上がっていきました。その頃年商が5500万円を越し堀内農園を法人化するかどうかも、税理士から決断を迫られていたと言います。

堀内さんたちはこの先の道をどう見出していくか、という岐路に立っていました。そしてそんな折に、かねてより柿チップの卸で付き合いのあった中川政七商店の代表、中川と人生を変える出会いを果たしたのです。
INFO

堀内果実園

堀内果実園
奈良県五條市西吉野町平沼田1393
https://horiuchi-fruit.jp/
facebook https://www.facebook.com/horiuchi.fruit.farm/

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文:Hemmendinger 綾 写真:奥山晴日

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